美容室を開業する際、多くの方が見落としがちなのが、「収支計画」の重要性です。ワクワクしながら店舗の内装やコンセプトを考える反面、「いくら儲かるのか」、「何にどれくらいお金がかかるのか」といった収支のシミュレーションは後回しになりがちです。
しかしながら、美容室の収支計画をしっかり立てていないと、資金繰りに苦しんだり、希望していた給料を得られなかったりと、経営に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、美容室開業における現実的かつ実用的な収支計画の立て方を、詳しく解説していきます。
サロウィンではフリーランス美容師のためのシェアサロンだけでなく小規模〜大規模まで美容室経営のトータルサポートサービスを提供しております。 ご相談だけでも構いませんのでお気軽にお問い合わせください。 |
美容室の収支計画とは?開業前に知るべき基本知識と目的
収支計画とは将来を可視化するツール
「収支計画」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、簡単に言えば「いくら稼げて、どれだけ支出があるのか」を予測するための設計図です。美容室の収支計画を作ることは、将来的な収益の見通しを立てて、目標達成の道筋を描くことに他なりません。
特に開業時には、過去の売上データが存在しないため、「なんとなくこれくらい」という曖昧な予測に頼ってしまう人も少なくありません。
しかしながら、しっかりとした根拠のある数字を出さなければ、後で資金ショートを起こす危険性もあります。
なぜ収支計画が必要なのか?
収支計画を立てる最大の目的は、「独立後の自分の給与」を明確にすることです。1ヶ月の売上から1ヶ月の経費を差し引いた額が、実際に手元に残る利益=給与になります。
売上-経費=給与
こちらの様なシンプルな計算式に基づき、美容室の収支計画を組み立てることで、「この規模でこの売上なら、これくらいの給料が得られる」という見通しが立てられます。
安全性・収益性・成長性のバランスが大切
収支計画を立てる際に考慮すべき三大視点があります。
①安全性:資金繰りが安定しているか
②収益性:しっかりと利益が出るか
③成長性:将来の拡大余地はあるか
こちらの順序で考えることが、持続可能な美容室経営には不可欠です。
融資の審査にも影響する美容室の収支計画
美容室の開業資金を融資で賄う場合、金融機関はその返済能力を厳しくチェックします。ここで収支計画は極めて重要な書類になります。なぜなら、「毎月どれだけ利益が出るのか」、「借りたお金を確実に返済できるか」を判断する基準になるからです。
美容室の収支計画シミュレーション|15坪モデルでリアルに検証
楽観的な予測ではNG
収支計画を立てる際、陥りがちなのが、理想を前提にした計算です。「客単価は1万円で、毎日満席」という楽観的な予測をしてしまうと、現実との差に苦しむことになります。現場の感覚に基づき、平均的な数字で組み立てることが大切です。
収支計画のモデルケース:15坪の美容室の場合
◼︎想定する店舗の概要
以下は、開業を予定している美容室の一例です。
店舗面積:15坪 セット面:3席 シャンプーブース:2台 スタッフ:オーナー1名+アシスタント1名 営業時間:9:00〜18:00 現在の給与:25万円 開業資金:1,650万円 |
◼︎売上(入金)シミュレーション
客単価:6,000円 1日来店客数:9人 営業日数:25日 計算すると、月間売上=6,000円 × 9人 × 25日 = 135万円で、こちらの135万円が、月ごとの入金額になります。 なお、金融機関は美容室の業界平均として、「客単価6,000円前後」を想定しています。こちらを超える売上目標を掲げると、過剰に楽観的と判断されて、融資に不利になる可能性があります。 |
👉内装費のリアルな費用感もあわせてチェック!『おしゃれな美容室内装を叶える素材選び7つの秘訣|美容室経営者・独立希望者向けガイド』
月間の支出(出金)予想
以下は、月ごとの支出(出金額)を想定した項目です。
項目 | 金額(円) |
日本政策金融公庫への返済 | 115,000円 |
銀行融資の返済 | 95,000円 |
アシスタントの人件費 | 170,000円 |
光熱費(15坪 × 5,000円) | 75,000円 |
材料費(売上の10%) | 135,000円 |
広告宣伝費・会計・HP運営など | 80,000円 |
合計 | 850,000円 |
こちらの85万円が、月々の支出の総額(出金額)になります。
利益の予想。未来のお給料を明確にする
売上135万円から支出85万円を引くと、残るのは50万円。こちらが、オーナーであるあなたの月間利益、つまりお給料になります。
月間利益:135万円 − 85万円 = 50万円。現在の給与25万円と比較すると、ちょうど2倍。こちらは、理想的な収支計画の例といえます。
美容室の収支計画で“給与2倍”を目指す理由と考え方
では、なぜ未来の給料を「2倍」に設定するのでしょうか?詳しく解説します。
現在と同じ収入ではリスクの割に合わないから
美容室の収支計画を立てる際、「今の給料と同じくらいの収益があれば大丈夫」と考えていませんか?それは大きな誤解です。開業にはリスクが伴い、融資による借金の返済や、経費の管理、スタッフ育成など、会社員時代にはなかった負担が増えます。
そのため、最低でも「現在の収入 × 1.5~2倍以上」を目標にするべきです。仮に現在の給与が25万円なら、独立後は少なくとも、月40〜50万円の利益が出るような計画を立てなければ、開業の意味がなくなってしまいます。
投資した分は回収しなければ意味がないから
美容室の開業資金として、1,000万円〜2,000万円以上を投資する方も少なくありません。こちらの費用は、将来的に利益として回収する必要があります。
もし現在と同じ収入しか得られないのであれば、「投資した資金を何年で回収するのか?」、「回収できないまま廃業にならないか?」といった問題に直面するでしょう。そのリスクを軽減するためにも、美容室の収支計画では、あらかじめ2倍以上の利益を想定することが重要です。
美容室の収支計画で利益を増やす方法|支出削減と固定費の見直し術
支出をコントロールする意識を持つ
売上を増やす努力も、もちろん大切ですが、経営においてもっと重要なのは「支出を抑える工夫」です。美容室の収支計画の成否は、支出管理にかかっていると言っても過言ではありません。
以下の様な工夫を取り入れることで、より健全な利益体制を築くことができます。
① 物件選びは慎重に
家賃が高額だと、売上の多くが固定費に消えてしまいます。立地だけに目を奪われず、「自分の収支バランスに合った家賃設定」かどうかを見極めましょう。
② 材料費を見直す
材料費は売上の約10%を目安にするのが一般的ですが、仕入れ先の変更や無駄な在庫を減らすことで、コストの削減が可能です。
③ 広告費・WEB運用費の最適化
HPやSNSの活用で、広告費を抑えながら集客力を維持する方法もあります。初期費用はかかっても、長期的には、費用対効果が高い選択になることもあります。
👉家賃設定や立地の選び方はこちら『失敗しない美容室テナントの探し方と選び方|居抜き・新築・空中階・路面店を徹底比較』
美容室の収支計画における融資期間の考え方|利益ゼロでも続けるコツ
返済を最優先する期間と捉える
美容室の融資返済期間は、概ね5年から10年。つまり、この期間は「実際の利益が出ていないもの」として運営するくらいの心構えが必要です。
仮に月に50万円の利益が出ていても、その大半は融資の返済や積立、設備投資に回すことになります。生活費や家計の余裕のために、資金繰りには余裕を持たせるべきです。
積立と将来の投資も計画的に
返済だけでなく、将来的なリニューアルの費用や、スタッフの育成などにも備えて、毎月一定額の積立をしておくことが望ましいです。こちらを支出項目に含めた形で、美容室の収支計画を組みましょう。
美容室の収支計画を中長期視点で見直す|3年・5年後の成長戦略
収支計画は「変化する設計図」
美容室の収支計画は、開業時に一度立てれば終わりではありません。市場の状況やスタッフ数の変動、サービスメニューの追加などに応じて、収支構造は変化していきます。
定期的に収支を見直して、「どこで利益が増減しているのか」、「次に投資すべきはどこか」を分析することが、安定経営への近道です。
3年後・5年後のビジョンを数字で表す
例えば、
1年目:利益50万円×12ヶ月=年間600万円
3年目:売上150万円、利益60万円
5年目:スタッフを2名増員し、月利益80万円へ
こちらの様に、美容室の収支計画の延長線上に、具体的なビジョンを数字で描くことで、日々の運営のモチベーションも向上します。
美容室の収支計画でよくある失敗例と防ぐための対策まとめ
美容室を開業する際、多くの方が「収支計画」を立てるものの、実際の経営が始まってから「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースが少なくありません。その原因は、収支計画に対する認識不足や準備不足にあります。
ここでは、美容室の収支計画において、特に多い失敗パターンと、それを回避するための具体的な対策を紹介します。
失敗例①:見せるためだけの収支計画を作ってしまう
金融機関からの融資を通すために、あらかじめ「見栄えのいい数字」で、帳尻を合わせてしまう収支計画を作成してしまう方がいます。
例えば、客単価を平均以上に高く設定したり、経費を楽観的に見積もったりするなど、「実現性」よりも「印象重視」の内容になってしまうのです。
なぜ失敗するのか?
現場での実績と大きく乖離した計画は、いざ経営がスタートすると破綻します。「想定よりお客さんが少ない」、「支出が予想以上だった」といった状況に直面し、資金繰りがすぐに苦しくなることも。
収支計画は、自分自身が経営判断をするための「現実的な設計図」でなければ意味がありません。
回避方法
- 美容室の平均的な客単価や来店数をもとに、現実的な数値でシミュレーションする
- 「最悪のケース」も想定した上で、予備費や余剰資金を確保する
- 第三者(税理士や美容室コンサルタントなど)にチェックしてもらう
失敗例②:開業後に収支計画を見直していない
開業準備中に一度だけ作った収支計画を、そのまま数年間放置してしまうケースもよく見られます。実際の売上や経費が変化していても、「手間だから」、「数字を見るのが苦手だから」と見直さずに運営していると、知らない間に、経営が赤字になっていたということもあります。
なぜ失敗するのか?
収支計画は「常に変化する設計図」です。売上の上下や人件費の増加、原材料費の高騰など、経営環境は刻一刻と変化します。その変化に対応していない計画は、実態とかけ離れた机上の空論になってしまいます。
回避方法
- 少なくとも「3ヶ月ごと」に収支の実績と計画を照らし合わせて見直す
- 売上や経費の項目ごとに「想定と実績の差」を明確にする
- Googleスプレッドシートや会計ソフトを活用して簡単に管理できるようにする
失敗例③:楽観的すぎる予測をベースにしている
「毎日予約で満席になるはず」、「客単価1万円でも問題ない」、「広告を出せばすぐに集客できる」など、現場の実態を反映していない楽観的な前提で計画を立ててしまう例です。特に開業前は希望に満ちているため、厳しい現実を見落としてしまいがちです。
なぜ失敗するのか?
希望的観測に基づいた収支計画では、少しでも実績が下回ると、すぐに赤字になります。また、経費が思ったよりもかさんでしまった場合、黒字転換が難しくなり、融資の返済もままならなくなります。
回避方法
- 最初から「楽観・標準・悲観」の3つのシナリオで計画を作成する
- 美容室の実績データを調べて、地域・業態に合った売上モデルを作る
- 客単価や来店数を高めに設定しすぎない
失敗しないためには「数字に向き合う」習慣を
美容室の収支計画の失敗を防ぐ最大のポイントは、「現実を見据えた数値設定」と「定期的な見直し」にあります。見せかけだけの数字では、融資は通っても経営は続きません。収支の把握は、美容室の将来を左右する最も重要な経営判断です。
事業の成長と安定を図るためにも、収支計画を常にアップデートして、実際の数字と向き合う習慣を身につけましょう。それが、失敗しない美容室経営への第一歩です。
まとめ
美容室の収支計画は、単なる数字合わせではなく、未来の自分とサロンの運命を左右する「設計図」です。今の収入の2倍を目指す理由、支出管理の工夫、融資返済期間の考え方、中長期的なビジョンの描き方など、収支計画に込められる意味は非常に深いものです。
特に開業初期は、資金繰りや返済に追われがちですが、それでも毎月の数字に向き合い、計画的な経営を続けることで、美容室は長期的に安定したビジネスへと成長していきます。
未来のお給料を見据えた美容室の収支計画、あなたはもう立てていますか?
サロウィンではフリーランス美容師のためのシェアサロンだけでなく小規模〜大規模まで美容室経営のトータルサポートサービスを提供しております。 ご相談だけでも構いませんのでお気軽にお問い合わせください。 |