美容室の開業や移転を計画する際、デザインや立地に目が行きがちですが、実際に営業を支えるのは給排水と電力容量といった“見えないインフラ”です。
もしここを軽視すると、
- 営業中にブレーカーが落ちる
- シャンプー中に水圧が弱まる
- お湯が途中で出なくなる
といったトラブルに直結します。
本記事では、美容室の開業・運営に欠かせない給排水・電力容量の基礎知識から、容量の計算方法・工事費用の目安・失敗しない設計ポイントまでを、実務者目線でわかりやすく解説します。
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美容室 開業前に知っておきたい給排水設備の基礎
美容室では、1日あたり数百リットル以上の水を使用します。シャンプー、カラー剤の洗い流し、タオル洗濯など水を使う工程が多く、家庭とは比較にならない水量が必要です。
そのため、給排水設備の設計は店舗運営の生命線といえます。
給水管の口径と水圧の目安
- シャンプー台が2〜3台ある美容室では、25mm(1インチ)前後の給水管が理想。
- 20mm以下だと同時使用時に水圧が低下するリスクがあります。水圧が低い場合は、タカラのダンリュウを使用すれば20mmで対応できます。
- 物件によっては上水の立ち上げ位置が遠く、圧力損失が起こる場合もあるため、現地で水圧測定を行うのがおすすめです。
排水管の口径と勾配の確保方法
排水管の設計では、排水口径と勾配が重要です。
- シャンプー台3台程度の店舗では、**排水管径φ75mm〜80φ(直径75〜80mm)**が目安。
- 排水勾配が不足すると、髪の毛や薬剤の残留で詰まり・逆流が発生します。
- 勾配を確保するため、床を10〜20cm上げる「床上げ工法」を採用するケースが多いです。
| 💡 チェックポイント ビルの2階以上では、排水経路に制約があるため、契約前に現地確認を必ず実施しましょう。 |
給湯器容量の計算例と選び方
美容室で最も消費が大きいのが「お湯」です。美容室では「お湯切れ」が営業停止に直結します。給湯器を使用される場合は以下を参考に検討しましょう。
目安
- シャンプー台1台あたり必要な給湯能力:16〜20号クラス(1分間に16〜20Lのお湯供給)
- 3台使用する場合:50〜60号相当の能力が必要
参考
- Shampoo ×4台までは16号給湯器 + ダンリュウ
- Shampoo ×5~6台は25号給湯器 + ダンリュウ
- Shampoo ×7台以上は ダンリュウ×2セット
ガス式・電気式(エコキュートなど)いずれを選ぶかは、電力容量計画とセットで検討しましょう。
美容室の電力容量を正しく把握する方法
電灯契約と動力契約の違い
美容室では、照明・ドライヤー・エアコン・洗濯乾燥機など多様な電気機器を同時に使用します。
そのため、契約電力の種類と容量設計を正しく理解することが重要です。
電灯契約と動力契約の違い
- 電灯契約(100V/200V):照明・ドライヤー・コンセントなど一般機器
- 動力契約(200V三相):業務用エアコン・給湯ボイラー・ポンプなど大容量機器
動力契約が引き込まれていない物件では、新たに工事が必要で10〜30万円程度の追加費用が発生します。
必要電力の計算方法(同時使用率を考慮)
電力容量は、各機器の消費電力を合計し、同時稼働率を考慮して算出します。
例)10坪の美容室の場合
| 機器名 | 消費電力(W) | 数量 | 同時使用率 | 計算結果(W) |
| ドライヤー | 1,200 | 3 | 80% | 2,880 |
| 照明・レジ類 | 800 | 1 | 100% | 800 |
| エアコン(動力) | 4,000 | 1 | 100% | 4,000 |
| 洗濯機・乾燥機 | 1,500 | 1 | 50% | 750 |
| 合計 | 7,000〜8,000W (約7〜8kW) |
これをアンペア換算すると、電灯側では60A前後、動力側で30A前後が目安。
余裕を持たせて設計することで、季節負荷にも対応可能です。
容量不足が招くリスクと注意点
容量不足は、美容室運営における最大のリスクの一つです。営業中にブレーカーが頻繁に落ちると、
- 施術中断・顧客不満・予約キャンセル
- ブレーカーが頻繁に落ち、施術が中断する
- 過負荷により配線が過熱し、火災リスクが高まる
- 冷暖房や給湯が不安定になり顧客満足度が低下し予約キャンセル
など、直接的な売上損失につながります。
特に改装や機器入替えを行う際は、分電盤の余力を確認し、必要なら契約容量を増やす or ブレーカーを増設を行いましょう。
美容室の給排水・電力工事の費用相場
給排水工事の費用目安と注意点
美容室の開業において、最もコストが読みにくいのが「給排水工事」です。店舗の構造や階層によって大きく変動しますが、一般的な10〜15坪規模での相場は以下の通りです。
| 工事内容 | 費用目安 | 備考 |
| 給水・排水管の新設 | 30〜60万円 | 水道引き込み・排水管接続を含む |
| 床上げ(置き床)施工 | 10〜20万円 | 勾配確保のため事 |
| シャンプー台配管接続 | 1台あたり5〜10万円 | 台数によって変動 |
| 給湯器設置 | 15〜40万円 | ガス・電気・ボイラーの種類で変動 |
ビル2階以上では排水勾配確保が難しく、ポンプ設置が必要になる場合もあるため、
契約前に内装業者と現地調査を行うことが重要です。
電力容量増設・分電盤工事の費用目安
次に、電力容量を確保するための電気設備工事費用です。美容室ではドライヤーやエアコンなど消費電力が大きい機器を同時使用するため、契約アンペアを増やすケースが一般的です。以下は、10〜15坪程度のサロンを想定した概算費用です。
| 工事項目 | 費用目安 | 備考 |
| 分電盤・ブレーカー交換 | 10〜20万円 | 状況により変動 |
| 動力回線新設 | 15〜30万円 | 幹線引き込み工事 |
| コンセント増設・照明配線 | 10〜25万円 | デザイン照明など含む |
| 契約アンペア変更工事 | 5〜10万円 | 電力会社申請費含む |
また、エアコンやボイラーなどの高負荷機器を同一系統にまとめてしまうとブレーカーが落ちやすくなるので、電源回路を分けて設計することが望ましいです。特に「動力契約」を導入する場合は、電力会社への申請やメーター増設も必要となるため、スケジュールに1〜2週間の余裕を見ておきましょう。
設備トラブルを防ぐ事前チェックリスト
美容室や飲食店などの店舗移転・開業では、デザインや立地に意識が向きがちですが、実際に営業を始めてから最も多いトラブルは「設備まわり」です。開業前に確認すべきポイントを整理しておくことで、営業停止や追加工事などのリスクは大きく減らすことができます。
1. 電気設備(ブレーカー・分電盤・コンセント配置)の確認
- 施術機器(ドライヤー・シャンプー台ヒーター)や照明、レジの消費電力を確認
- 一般的な目安は20〜30kVA程度の契約
- 既存テナントを引き継ぐ場合、容量不足でそのまま使用していないかチェック
- 分電盤の位置、ブレーカー容量、コンセント数・配置を確認し、増設が可能な構成かも確認
2. 給排水設備の確認(配管径・勾配・給湯能力)
- シャンプー台・洗面台の同時使用を想定して、排水勾配や配管径が適正か確認
- 設計段階で水の流れを確認し、排水テストを実施
- グリーストラップの設置や排水口の位置を確認
- 給湯器の号数(例:3台なら20号以上)を確認し、連続使用時に湯切れが起きないかチェック
3. 空調・換気・ガス設備の確認
- 空調能力が不足すると、夏は冷えず冬は暖まりにくく、薬剤の揮発や臭気滞留の原因に
- 目安:10坪あたり2.5〜3馬力程度
- 換気ダクトの位置や排気ルートを確認し、空気の滞留や臭気漏れが起きないか
- 天井裏・壁内のスペースがメンテナンス可能か確認
- ガス給湯器やストーブの同時使用時にガス容量が不足していないか確認
- 換気と給気のバランスが崩れると、外気の逆流や臭気漏れが起こるため、施工業者と打ち合わせ
4. メンテナンス性の確保
- 天井裏や床下に点検口を設置し、修理・清掃が容易な構造にすることで、修理時に大掛かりな解体が必要にならないようにする
- 空調フィルターの清掃がしやすいか、防露処理が適切かを確認
- 日常のメンテナンス動線も考慮した設計
- 湿度の高いエリアでは、カビや結露による機器劣化を防止
5. 工事契約・引き渡し段階での確認事項
- 設備図面の引き継ぎを受け、負荷テストを実施(※前テナントの設備構成図があると、改修やメンテナンスがスムーズ)
- 引渡し前に照明・空調・給湯を同時稼働させ、容量オーバーや水圧低下がないか動作確認
- 施工保証や保守契約の有無を契約書に明記
- 開業後のトラブルや追加費用を最小化するため、専門業者と一緒に全ポイントを事前確認
設備トラブルは「開業前の確認不足」から生じることがほとんどです。内装デザインや集客施策に先行して、電気・水・空調といった基礎設備を徹底的にチェックすることが、安定した店舗運営の第一歩です。
まとめ|美容室の給排水・電力容量の正しい設計で安心開業
美容室の開業・運営において、「給排水」と「電力容量」は表面には見えないものの、営業の安定性と顧客満足度を大きく左右する基幹インフラです。これらを正確に設計・確認しておくことで、トラブルのない店舗運営と、長期的なコスト削減が実現できます。
特に注意すべきポイントは以下の3点です。
① シャンプー台や給湯器の数に合わせて、給排水の能力を設計すること
② ドライヤー・照明・エアコンなど、全機器の消費電力を合計して電力容量を算出すること
③ 物件契約前に既存のインフラ(配管口径・電力量・幹線位置)を必ず確認すること
また、将来的な機器増設やスタッフ増員も視野に入れて、10〜20%程度の余裕を持った容量設計を行うことが推奨されます。過不足のない設計ができれば、無駄な光熱費や工事費を抑えつつ、安定したサービス提供が可能になります。
最後に、内装業者や設備業者を選ぶ際は「美容室の施工実績があるか」を必ず確認しましょう。美容室特有の給湯負荷や電気需要を理解していない業者に依頼すると、後から配管・配線をやり直すケースも少なくありません。
快適で安全な美容室づくりの第一歩は、見た目のデザインではなく、見えないインフラへの理解から始まります。この記事を参考に、理想の店舗づくりを計画的に進めてください。
(参照:全国美容室環境衛生協会「美容所の設備基準と設計ガイドライン」)
※上記数値は美容室開業・設計時の 目安値 です。物件の状況(階数・設備既存・地域・使用機器数)や施工条件により大きく変動します。正式な設計・見積り時には、専門業者の現地調査・資料確認を行ってください。
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