結婚や出産をきっかけに「美容師としてのキャリアを続けられるだろうか」と悩む女性美容師は少なくありません。実際に、育児との両立の難しさから復帰をあきらめてしまう人もいるでしょう。
今回お話を伺ったのは、2人の子どもを出産後、約5年間のブランクを経て、今年4月に美容師として復帰した陶山光代さん。現在はSALOWIN新宿三丁目me+店でフリーランス美容師として活躍しています。
これまでのキャリアや出産・育児を通じて直面した課題、そして新たに描くこれからの夢について語っていただきました。
出産=負けではない。フリーランス美容師の働き方を選んだ理由
―これまでのご経歴を教えてください。
陶山:美容師歴は12年目です。新卒で分業制のサロンに入社し、美容師としてのキャリアをスタートしました。私はカットが専門だったのですが、カラーにも挑戦してみたい気持ちがあり、同時にヘッドスパや小顔矯正といったリラクゼーションの分野にも強く惹かれました。
その延長でアーユルヴェーダなど東洋医学の施術を学びながら、アルバイトのような形でリラクゼーションサロンにも所属し、実際に施術の経験を積みました。体の根本を整えて土台をつくり、自然治癒力を高めていくという考え方がとてもおもしろく、自分にとって大きな発見だったと思います。
また、その時期には海外にもよく足を運び、薬草やアロマを学びました。学んだことを持ち帰っては、また新しい知識を求めて出かけることをくり返すのが本当に楽しくて、今振り返ると大きな財産になっています。
その後は都内の別のサロンに勤務し、美容師として多くのお客様と関わりながら技術や接客を磨かせていただきました。
ただ、コロナ禍のタイミングで妊娠がわかり、お店も休業中だったのでそのままお休みさせてもらうことにしました。その間に二人目も授かり、約5年間は子育てに専念していました。そして今年、美容師として仕事復帰し、8月にはフリーランス美容師として新たな一歩を踏み出しました。
―産休や育休の制度は整っていましたか?
陶山:当時、サロンの中で私が最初に妊娠したので、前例がなく制度もありませんでした。美容業界では産休や育休が取りにくい雰囲気もまだあります。だからこそ、自分で制度を調べて手続きを進めたり、後輩のモデルケースになれるよう動いたりもしました。行動を起こさないと何も変わらないので、はじめの一歩でしたね。
―約5年のブランクを経て復帰後、フリーランス美容師になったきっかけは何ですか?
陶山:自分が美容師として本当にやりたい施術を、きちんとメニューに落とし込みたいと思ったのが大きな理由です。
育休を取っていた約5年間は、ずっと子どもが中心の生活でした。美容師として挑戦してみたいこともたくさんありましたが、育児がどんなものか、どんな気持ちで一人の人間を育てていくのかを知りたい気持ちもありました。育児に全力で向き合ったからこそ気づけたことや得られた学びは、とても大きかったです。
もちろん大変なことも多く、メンタル面でも体力面でも大きな影響を受けました。だからこそ「こんな大変な気持ちを、他の人が1人で抱えこんだり、味わってほしくない」「どうしたら苦しんでいる女性を救えるんだろう」という想いが自然と強くなっていきました。
女性は生理周期もあり、どうしてもメンタルが揺らぎやすいですし、自律神経が乱れることで気づかないうちに心も体も疲れてしまいます。そんなときにヘッドスパで自律神経を整えたり、顔の凝りをほぐしたりするだけで、脳がとてもすっきりします。香りも含めてリセットできる時間を提供することで、美容師という仕事でママだけでなく頑張りすぎている女性が少し肩の力を抜ける場所をつくりたいと考えました。
私自身、しんどさを一人で抱え込んだ経験もあり、誰かに話してもわかってもらえない切なさも感じてきました。だからこそ「無理しなくていいよ」と伝えられる場を持ちたいと思いました。
特に美容業界では、女性が出産すると「キャリア的に負け」という雰囲気がまだまだあります。実際、私も育児で動けなくなり、頑張って増やしていったSNSのフォロワーが8万人から日々減っていく現実を目の当たりにして、復帰をあきらめそうになった時期もありました。
でも、子どもを産むことは決して「負け」ではありません。むしろ人生の新しいステージに進み、人として大きく成長できることだと思います。それを伝えたいし、大変なときは「助けてもらっていいんだよ」と背中を押したい。そのためにフリーランス美容師の道を選びました。
―ターゲットが明確になったのですね。お客様としても美容師は適度な距離感があるから、悩みも相談しやすいですよね。
陶山:そうですね。誰にも言えない悩みや、身近な人には話せないことでも、第三者としてうまく活用してほしいと思います。自分を整えるためのひとつの手段として、美容師を頼ってもらえたら嬉しいですね。

5年間のブランクを経て仕事復帰。不安より「やるしかない」
―約5年というブランクに、不安はありませんでしたか?
陶山:不安というより、やるしかないという気持ちでした。5年間のブランクがあったので、お客様は0だと覚悟していました。だからこそ、育児に専念するときはしっかり割り切り、また0からスタートすると決めていました。その覚悟がないと育休なんて取れませんよね。
出産後すぐに復帰される方もいますし、それぞれの事情や考え方があるのでそれを否定するわけではありません。でも私は最低でも1年はしっかり子どもを見ようと決めていました。「子どもを産んだ意味はどこにあるんだろう」と考え、後悔することがないようにしたかったんです。
育児は本当に人生をかけた選択だと思います。だからこそ、家族や周りのサポートがどれだけ大事かも痛感しました。自分の経験を、子どもにも活かしていきたいと思っています。
―実際に仕事復帰してみていかがですか?
陶山:8月フリーランスをから始めたばかりなので、まだ試行錯誤している段階です。骨格矯正やフェイシャルなど、リラクゼーションのメニューをシャンプー台でどこまで十分にできるのか試しているところです。
実際にお客様に施術してみて初めて形になるものもありますし、自分の技術に加えて使用する商材も明確にしていきたいので、どうしても時間は必要です。お客様と一緒にじっくり形にしていくつもりです。今年の12月までには、メニューや施術の形をしっかり固めたいと思っています。
大変なこともありますが、何もかも楽しいです。やっぱり仕事は最高です(笑)。育児より大変なことはないですからね。
―確かに、子育てはスムーズにいかないことだらけですよね。
陶山:本当に全部うまくいかないですよね。寝かしつけも、歯磨きひとつでも簡単にはさせてくれません。何もかもイヤイヤされることもあります。
自分の予定通りに進めたくても、どうしても妥協しなければならないのがすごくつらいです。仕事の時間を削らなければならないこともあります。
もちろん子どもは大好きでそのために動きますが、みんな苦しみながら悩みながらやっていますよね。だからこそ少しでも助けになりたいなと思います。
フリーランス美容師としての働き方と日常
―フリーランス美容師として再スタートの場所として、SALOWINを選んでいただいた理由を教えてください。
陶山:やはりきれいなサロンでお客様にリラックスして過ごしていただきたいと思ったからです。きれいなサロンだと心も整いますしね。
―復帰後、お客様は戻ってきてくださいましたか?
陶山:完全に0からのスタートになることを覚悟していたのですが、少しずつ戻ってきてくれるお客様もいて嬉しいです。5年ぶりにお会いするお客様と感動の再会になることもありますね。意外と新規のお客様も増えてきています。
―お客様の反応はいかがですか?
陶山:「落ち着きますね」「おしゃれでいいですね」と言ってくださる方が多いですね。
私自身、空間デザインが好きなので、鏡ひとつの形や光の入り方など、細かい部分にもこだわっています。それだけでもお客様の気持ちが上がると思いますし、置かれているもの一つひとつにときめきを感じてもらえるようにしています。
―働く時間はどうされていますか?
陶山:今は10時~17時にしています。仕事が終わったらすぐに保育園のお迎えに行って、帰宅してごはんを作って、という毎日です。
夫もフリーランス美容師なので、子どものイベントに合わせて休みを調整したり、お互いに時間を作りやすいのは良いですね。

今後の展望と迷っている女性美容師へメッセージ
―今後の展望はありますか?
陶山:リラクゼーションのメニューを強化して、自分がイメージするサロンをつくることですね。サロンというか、自分の想いを形にしたいです。
一番は頑張りすぎている女性をサポートしたい、助けたいという気持ちです。「一人で苦しまなくていいよ」と伝えられるような存在でいたいですね。
―最後に、フリーランス美容師を目指す方や迷っている女性美容師の方にアドバイスがあればお願いします。
陶山:結局は「自分がどうしたいか」が一番大きいと思います。今は昔に比べて子育てしながらでも働きやすいサロンも少しずつ増えていますし、会社員として働く道ももちろんあります。
ただ、やりたいことが明確にあるなら、フリーランス美容師という選択肢はとても良いと思います。時間の自由が利くので、子育てとの両立もしやすいです。
私自身も「自分の想いを形にしたい」という強い気持ちがあったので、フリーランス美容師を選びました。迷っている方も、ぜひ自分の気持ちを大事にして進んでほしいですね。
ブランクも経験も味方に、新たな未来への一歩を
約5年間のブランクを経て復帰し、フリーランス美容師として新たな一歩を踏み出した陶山さん。「子どもを産んだから負け」ではなく、「子育てを通して成長できる」と前向きに語る姿勢は、多くの女性美容師に勇気を与えてくれるはずです。
子育てと両立しながら、自分のやりたいことを形にしたい方にとって、フリーランス美容師は大きな可能性を広げてくれる働き方です。ブランクがあっても夢をあきらめず、前向きな一歩を踏み出してみてくださいね。

