美容師という職業には、そもそも「退職金制度」が用意されていないケースがほとんどです。正社員として長く勤めていても、企業によっては退職金の支給がなかったり、フリーランスや業務委託で働いている場合は当然ながら制度自体が存在しません。そのため、現役で働いているうちは安定していても、「引退後に備える仕組みがない」ことに不安を感じている美容師の方は少なくないはずです。
では、美容師にとっての退職金とは何か?──答えは「自分でつくる退職金」です。
本記事では、フリーランス美容師の将来に備える選択肢として注目される「小規模企業共済」について詳しく解説します。制度の仕組み、加入条件、節税効果、注意点、始め方、そしてQ&Aまで網羅的に紹介します。まずは月1万円から。今の自分を守り、未来の安心につなげるために、ぜひ一歩踏み出してみてください。

1. 小規模企業共済とは?
小規模企業共済は、国が用意した「自営業者・フリーランスのための退職金制度」です。運営しているのは中小企業基盤整備機構(中小機構)で、公的な信頼性の高い積立制度として、多くのフリーランスに支持されています。
会社員であれば、退職時に企業から退職金が支給される仕組みがありますが、フリーランス美容師にはその制度がありません。そこで、将来の引退や廃業時に備えて、自分で退職金を積み立てるための方法がこの制度なのです。
掛金は月1,000円〜7万円の範囲で自由に設定でき、退職時には「共済金」として一括または年金形式で受け取ることができます。さらに、掛金は全額所得控除の対象で、いまの税負担を減らしながら老後資金を準備できるのが最大の特徴です。
また、1年以上の加入で「契約者貸付制度」が利用可能になり、緊急時には積立金の範囲内で資金を借りることもできます。節税・退職金・貸付という3つのメリットを兼ね備えた、小規模企業共済は、美容師という働き方にとって非常に相性の良い制度です。
2. フリーランス美容師でも加入できる?
「私は店舗を持っていないけど加入できる?」「スタッフを雇っていないけど問題ない?」
そんな疑問を持っている方でも安心してください。小規模企業共済の加入対象は、非常に幅広く設計されています。
加入の基本条件
以下すべてに該当すれば、美容業を営む方でも加入できます。
- 個人事業主として開業している(開業届を税務署に提出済)
- 常時使用する従業員が5人以下(美容業などサービス業の場合)
- 営業実態がある(開業届、確定申告などで確認)
つまり、自宅サロンやレンタルサロンで働く美容師でも「事業主」であれば問題なく加入できます。
法人経営でも加入できる?
法人として美容室を経営している場合でも、代表者(取締役など)として役員報酬を受け取っている場合は加入可能です。
法人の規模によっては加入できないケースもありますが、サロン経営者であれば多くが該当します。
パートタイムや副業美容師は?
副業として美容業をしている場合でも、「開業届を提出していて」「事業所得がある」状態であれば、加入できる可能性があります。
一方、給与収入のみの業務委託契約(いわゆる雇われスタイリスト)や、開業届を出していない個人は対象外になることが多いので注意が必要です。
小規模企業共済は「フリーランス=個人で働くすべての美容師さん」にとって、老後の備え・節税の両面で非常に心強い制度です。
加入にあたってのハードルは低く、「開業届を出しているか」が最大のポイント。
まだ出していない方は、この記事をきっかけに開業届の提出から始めてみましょう。それだけで、節税しながら退職金を準備する“選択肢”が一気に広がります!
👉開業届について不安な方は『美容師の開業届マニュアル|提出タイミング・記入例・節税まで解説』
3. 小規模企業共済の主なメリット
小規模企業共済は、フリーランス美容師にとって非常に魅力的な制度です。その理由は大きく3つに分けられます。ここではそれぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット①:掛金が全額所得控除=節税になる!
掛金(1,000円~7万円/月)はすべて所得控除の対象となり、節税効果が非常に高いです。所得控除とは、課税される前の所得から差し引ける金額のこと。これにより、所得税・住民税が軽減されます。
例)月3万円の掛金を1年間続けた場合、年間36万円の所得控除が可能。
税率20%であれば、年間約7万円の節税になります。
さらに、共済金を受け取るときにも「退職所得控除」または「公的年金控除」が適用され、受取時の税金も軽減されるという“出口でも得する”仕組みです。
また、確定申告時には中小機構から控除証明書が送付されるため、記入するだけで簡単に節税申請ができます。
小規模企業共済には、積立金を“退職金”として受け取る以外にも、現役のうちに有効活用できる大きなメリットがあります。
それが「契約者貸付制度」です。
この制度を利用すれば、積み立てた金額の範囲内(おおむね90%まで)で、低金利でお金を借りることが可能になります。
✅ 美容師にとっての活用例
- 店舗改装や内装工事にまとまった資金が必要なとき
- 新しい施術機器や商材の購入に一時的な資金が欲しいとき
- 急な家賃・光熱費・仕入れなどにキャッシュが足りないとき
民間ローンやクレジットカードローンと違い、利率が非常に低く(0.9%~1.5%)、保証人や担保も不要。(参考サイト)
「自分のお金を一時的に前借りする」イメージなので、精神的にも安心です。
✅ 申請条件と流れ
- 掛金を12ヶ月以上納付していること(1年経過)
- 申込は中小機構または金融機関窓口、郵送も可
- 審査は比較的スムーズ。早ければ1〜2週間で融資実行
フリーランス美容師は「繁忙期/閑散期」がある働き方なので、キャッシュフローの波をならす手段としても非常に有効です。
また、返済は最長7年程度まで分割可能で、状況に応じて無理なく返済できます。
節税と退職金だけでなく、「経営支援」としても機能するのが小規模企業共済の隠れた強みです。
4. 注意点とデメリットもチェック
小規模企業共済は非常に優れた制度ですが、いくつか注意しておきたいポイントも存在します。制度を正しく理解したうえで、自分に合った活用を心がけましょう。
短期解約は元本割れのリスクあり
特に注意が必要なのが「加入して6年未満で解約するケース」。この場合、払い込んだ掛金総額よりも受け取れる解約金が少なくなり、元本割れの可能性があります。共済は長期積立を前提とした制度のため、「すぐにやめるかもしれない」と思う方には不向きです。
原則として、所定の理由がないと受け取りできない
共済金の受け取りには、「廃業」「老齢(原則65歳以上)」「死亡」などの正当な理由が必要です。単なる中途解約では「共済金」ではなく「解約手当金」という扱いになり、金額が少なくなることもあります。
掛金の変更は年1回まで
ライフスタイルや収入の変化に応じて掛金を見直したい場面はありますが、掛金額の変更は年に1度までと決まっています。将来的な収支を見越して無理のない金額設定をしておきましょう。
これらの注意点は、「制度を途中でやめる」または「早期にお金が必要になる」可能性がある人には大きなデメリットとなるかもしれません。しかし、逆に言えば、長く継続して老後の備えをしっかりしたい人にとっては、制度の設計そのものがメリットになります。
5. 小規模企業共済の始め方【ステップ別】
ステップ①:開業届を提出する(まだの人向け)
税務署で「個人事業の開業届出書」を提出すればOK。控えが必要になるので保管しましょう。
ステップ②:中小機構の資料請求→申し込み
公式サイト(https://www.smrj.go.jp/kyosai/)から資料を請求できます。
金融機関(地銀・ゆうちょ等)からの申込も可能。
必要書類
- 開業届または確定申告書の写し
- 本人確認書類(免許証など)
- 掛金引き落とし口座の情報
ステップ③:掛金の設定(1,000円~7万円/月)
掛金は途中で変更可能ですが、年に1回まで。最初は月1万円程度で無理なくスタートするのがベストです。
👉他にも使えるフリーランス美容師向けの節税術は『iDeCo(個人型確定拠出年金)の始め方とメリット【美容師向け】』
6. よくある質問Q&A(美容師向け)
小規模企業共済に関して、美容師の方々からよく寄せられる質問をまとめました。
Q1:小規模企業共済とiDeCo、どちらを優先すべき?
→ 退職金目的なら共済、老後資産形成ならiDeCo。両方併用も可能です。
Q2:急に掛金が払えなくなったら?
→ 一時的な停止が可能。1年以上の加入で貸付制度の利用も検討できます。
Q3:どのくらい貯めればいい?
→ 月3万円で20年間積立=約720万円。利息・節税を含めれば実質1,000万円近くに。
Q4:節税って実感できる?
→ 年間36万円の掛金で税率20%なら約7万円節税。長期で大きな差になります。
Q5:開業届を出していないと加入できない?
→ はい。開業届の提出が必須です。
Q6:受取時に税金はかかる?
→ 退職所得控除の対象となり、税負担は少なめです。
Q7:途中解約したら損?
→ 6年未満で解約すると元本割れのリスクあり。継続加入が前提です。
Q8:確定申告が不安…
→ 控除証明書が届くので記入も簡単。会計ソフトの利用もおすすめです。
7. 他制度との比較:iDeCo・積立保険と何が違う?
小規模企業共済がいかに優れた制度であるかを理解するうえで、iDeCo(個人型確定拠出年金)や積立型保険(個人年金保険など)と比較してみると、さらにその特長が浮き彫りになります。
まず、節税効果という点では、小規模企業共済とiDeCoはどちらも掛金が全額所得控除の対象になるため、非常に強力です。これにより、年間数万円〜十数万円の節税が期待できます。積立型保険も一部は生命保険料控除の対象になりますが、控除上限は年間4万円程度と限定的です。
次に注目したいのは流動性。iDeCoは原則として60歳まで引き出せず、急な資金ニーズに対応できません。一方、小規模企業共済は、1年以上積立を行っていれば契約者貸付制度を通じて最大90%程度まで低金利で借り入れ可能です。これは、フリーランス美容師のように収入が季節や状況で変動しやすい職種にとって大きな安心材料となります。
また、運用リスクについても違いがあります。iDeCoは投資信託などを自分で選んで運用する仕組みのため、元本割れのリスクもありますが、小規模企業共済は元本保証型。積立型保険も基本的に元本保証ですが、途中解約による元本割れや利回りの低さには注意が必要です。
そして受け取り時の課税についても重要なポイントです。小規模企業共済は「退職所得扱い」となるため、受取金額が大きくても退職所得控除により税負担が非常に軽くなります。iDeCoも「公的年金等控除」が適用されますが、受取形式や額によって税額が変動します。積立保険は「一時所得」や「雑所得」として課税対象となる場合も多く、比較的税負担が重くなる傾向があります。
最後に、加入のしやすさについて。iDeCoは金融機関を選び、ネットで完結できる手軽さがありますが、運用の知識がある程度必要です。積立保険は保険会社との面談が必要なことが多く、営業の押しに弱い人は注意が必要です。小規模企業共済は、中小機構または提携金融機関からの資料請求と申し込みで簡単に始められ、制度自体が公的機関により管理されているため、安心感も高いといえます。
以下に3制度の特徴を比較した表を再掲します:
比較項目 | 小規模企業共済 | iDeCo | 積立型保険 |
節税効果 | ◎(全額所得控除) | ◎(掛金控除+運用益非課税) | ◯(一部控除) |
流動性 | ◯(貸付制度あり) | ×(60歳まで引き出せない) | △(途中解約で損の可能性あり) |
運用リスク | なし(固定積立) | あり(投資商品選択) | なし(利回り低め) |
受取時の課税 | 退職所得控除あり | 公的年金等控除 | 一時所得・雑所得等 |
加入しやすさ | ◎(自営業・開業届でOK) | ◎(ネット証券で簡単) | ◯(保険会社と面談が必要) |
このように比較すると、小規模企業共済は「節税・安心・柔軟性」のバランスが非常に優れており、特にフリーランス美容師のように収入が変動しやすく、事業資金や老後資金の不安を抱える人にとって、ベストな制度といえるでしょう。
8. まとめ:まずは月1万円からでOK!
小規模企業共済は、美容師としてフリーランスで働く方にとって、節税しながら“退職金”を自分で準備できる最強の制度です。
✅ 国が運営=安心・信頼性あり
✅ 掛金が全額控除=税金が安くなる
✅ 万が一の時は貸付制度で支援あり
✅ 将来の引退時にまとまったお金を受け取れる
「そんなに余裕がない…」という方でも、月1万円から始めて20年で240万円+節税+利息=数百万円の価値になります。
今の自分と未来の自分、両方を守る制度。それが小規模企業共済。
まずは資料請求から一歩を踏み出しましょう!
