自由な働き方に憧れてフリーランス美容師を目指す方は多いものの、その裏側にはリスクや大変さも隠れています。
今回お話を伺ったのは、横浜エリアで活動し、現在はSALOWIN横浜店でくせ毛特化ヘアデザイナーとして活躍する佐藤涼子さん。正社員・業務委託を経て、2022年にフリーランス美容師として独立した佐藤さんは「自由=不自由」だと語ります。
インタビューでは、フリーランス美容師のリアルな実情から、独立前に欠かせない準備、さらにフリーランス美容師に向いている人の特徴まで、率直にお話いただきました。
フリーランス美容師を目指したきっかけと集客準備
―これまでのご経歴を教えてください。
佐藤:横浜エリアでずっと美容師をしていて正社員としては2社、業務委託で3社経験しました。2022年にフリーランス美容師になり、くせ毛特化の美容師としてサロンワークをしながら、オリジナル商品の開発やブログ・SNSでの発信にも取り組んでいます。
―フリーランス美容師の働き方を選んだきっかけは何ですか?
佐藤:いろいろありますが、年齢を重ねて将来のことを考えるようになったのが一番のきっかけです。今年で45歳になりますが、35歳を過ぎた頃から「このまま美容師を続けて、40代以降はどうなるんだろう」と考えるようになりました。老後や親の問題なども出てきます。若い世代が多く活躍している美容師業界の中で、中堅の自分が新しい職場に溶け込むのは難しいと感じることもあり、次は転職ではなく、フリーランス美容師として独立することが最適だろうなと、ぼんやりとは考えていました。
そんな中でコロナ禍に突入し、緊急事態宣言の発令により、やむを得ずお店を一時的に閉めることとなりました。将来への不安を感じていたのに具体的な行動を起こせていなかった自分に対して、情けなさを感じました。
当時は業務委託で働いていたから、もちろん集客はお店任せで決して高くはないバック率。正社員のような保障もない。自分の力で”収入をコントロールできない”もどかしさを感じ、この状況に強い危機感を抱きました。だからこそ、自分自身で集客を学び、売上を作っていくしか道はないと改めて実感しました。
加えてサロンワークは労働集約型の働き方だから、自分が体を動かさなければ売上も立たないし、勤務場所にも縛られる。こういう働き方をいい加減変えなくては”先はない”と恐怖を覚えたんです。そのまま業務委託で働き続けることのほうが、私にとってはリスクでした。そこからフリーランス美容師になることを本気で意識し始めたんです。
―具体的にフリーランス美容師になるために行動し始めたのはいつ頃ですか?
佐藤:本格的に動き出したのは、フリーランス美容師になる8〜9か月前くらいです。それまでもブログ集客はしていましたが、全力で取り組んでいたわけではありませんでした。
転機になったのは、当時の同僚から「ブログ集客なんて絵空事ですよね」と言われたことです。その一言にカチンと来て「絶対に結果を出してやる!」と決意しました。そこから一気に火がついて、本気で取り組むようになりました。根は勝ち気なので、絶対に見返したいと思いましたね(笑)。
結果、マンツーマンで単価も今より低かったのに、指名売上で100万円を達成することができました。振り返ると、あの一言がなければここまで頑張れなかったかもしれません。
ちょうどコロナ禍の真っただ中でしたが、「今やらなきゃ」と覚悟を決めた瞬間でしたね。2021年の秋頃からは「このまま続ければ必ず結果が出る」という確信を持って取り組めるようになっていました。そして翌年、2022年の8月にSALOWINに入ることを決めました。
―フリーランス美容師になることに不安はありませんでしたか?
佐藤:不安だったからこそ、しっかり準備をしたという感じです。集客体制が整っていないままフリーランス美容師として独立する人も結構いると思うのですが、私はそれが怖くてできませんでした。あらかじめ売上目標を設定し、その目標に到達できる見通しが立ったことで、独立に向けて一歩を踏み出す決心がつきました。

SALOWINを選んだ理由とお客様の嬉しい反応
―当時はまだシェアサロンも少なかったと思いますが、SALOWINを選んでいただいた理由を教えてください。
佐藤:横浜エリアでいくつか店舗を見に行ったのですが、まず一番はバック率の高さですね。そして立地の良さも魅力でした。
また、もう一つ大きな決め手になったのが収納の多さです。他のシェアサロンを見に行ったら、小さいロッカー1個で月3,000円、追加したければ1個あたりさらに3,000円かかる仕組みでした。でもSALOWINは最初からロッカーが3個あり、トリートメントやカラー剤、薬剤を置くスペースも充実しています。美容師はどうしても荷物が増えていくので、収納がしっかりしているのは私にとって大きなポイントでした。
さらに、ラップやオイルなどの備品類まで揃っていたのには驚きましたね。そのような消耗品も全て自分で買うものだと思っていたので、とてもありがたかったです。
実際に利用してみても、事前に聞いていた条件とギャップがなく、安心して働けています。
―お客様の反応はいかがですか?
佐藤:「こういうお店は初めてです」と言われることがよくあります。入口にスタッフがいない代わりに、タブレットを使って受付をするシステムが珍しいのか「今どきの美容室ですね」と驚かれることも多いです。
最初は戸惑われる方もいらっしゃいますが、慣れてくると落ち着いてリラックスした時間を過ごしていただけています。私のお客様は、くせ毛に悩み人目を気にされる方が多いため、半個室で区切られた空間が安心感につながっているようです。くせ毛に関するデリケートなお悩みも、気兼ねなくご相談いただける環境です。
特にコロナ禍の時期には、「清潔感があって安心できる」というお声を多くいただきました。
一度この環境に慣れると、通常のオープンサロンでは他のお客様との距離感やスタッフの目線が気になるという方も多いと思います。私自身も、にぎやかで落ち着かない雰囲気のサロンは少し苦手なので、お客様のお気持ちにはとても共感しています。

フリーランス美容師になって変わった働き方と収入
―フリーランス美容師になって、働き方はどう変わりましたか?
佐藤:時間の使い方が大きく変わりました。
業務委託で働いていたときは、売上を上げるためには客数をこなすしかありませんでした。カット・カラーが6,000円くらいで、1時間半で仕上げなければいけませんでした。やろうと思えばできますが、常に急かされている感じでした。
多いときは1日にカットだけなら12〜13人、カット・カラーなら6〜7人くらいは担当していました。シャンプーなしのメンズカット30分というメニューもあって、3人連続だと1時間半で3人カットしなければいけません。このような常に時間に追われる働き方に違和感がありました。
また、結婚式場が近いサロンだったので、朝から30分のセットを10人連続でやるなんてこともありました。しかしヘアセットのお客様は、地方から来てその日限りで終わる方がほとんどです。ずっとリピートで通ってくださる指名のお客様を大切にしたいのに、セットの予約で指名の方を受けられないこともあり、不満を感じていました。
だからフリーランス美容師になって一番良かったのは、やりたくないことをやらなくて良くなったことです。メニューもすべて自分で決められるので、ずっとやめたいと思っていた縮毛矯正もやめられました。今はくせ毛特化として、本当にやりたいことに集中できています。
今では、サロンワークの時間は短くなりましたが、それでも以前より売上が上げられるようになりました。売上が同じ100万円だったとしても、フリーランス美容師だとバック率が高いので、収入は大きく変わります。そうなると、仮に労働時間を半分にしても収入は変わりません。時間に対する価値の捉え方が大きく変わったと思います。
以前はサロンワークに追われる毎日で、他のことに目を向ける余裕がありませんでしたが、今は自分の時間を自由に使えるようになったことが、本当に良かったと感じています。
―収入も増えましたか?
佐藤:そうですね、収入は増えました。売上自体も上がっていますし、最近はサロンワーク以外の活動もしているので、以前のようにガツガツ働いているわけではないのですが、「今月あまり働いていないな」と思っても、意外と売上が大きく落ちていません。
単価を上げたことも大きいですね。ずっと時間単価1万円を目標にしてきたのですが、業務委託で働いていた頃はカットが6,000〜7,000円くらいでした。今はカットで13,200円、カット・カラーも以前は12,000円ほどだったのが、現在は19,800円いただいています。
長くご来店いただいているお客様には、感謝の気持ちを込めて、価格は据え置き、消費税分のみの調整にとどめていますが、新規のお客様には、現在の価格設定でご案内しています。
そうすることで、働く時間を減らしても収入はしっかり確保できるようになりました。
これまでずっと必死に働いてきた分、働く時間を減らすことに不安を感じることもあります。それでも、今では確実に収入が以前より増えていて、目指してきた「時間単価の高い働き方」を実現できています。
フリーランス美容師のリアルは「一人ブラック企業」
―逆に、フリーランス美容師ならではのデメリットや大変なことはありますか?
佐藤:シェアサロンで働いているため、サロンの正式な「住所」が自分のものではない点は、デメリットといえばデメリットかもしれません。特に、法人化や商標登録などを進める際には、拠点としての明確な住所がないことに不便さを感じる場面もあります。
あと、フリーランスとして働く以上、サロンワークだけでなく、SNSの更新やブログ執筆、事務作業、確定申告まで、すべて自分でこなさなければなりません。雇われていた頃は「誰かがやってくれていたこと」も、すべて自分に返ってきます。私は“1人ブラック企業”と表現しています(笑)。
でも、正社員や業務委託で働いていた頃は、「やりたくないことをやらされる」ことがストレスでした。フリーランスになって気づいたのは「やりたくないことをやらないためには、結局、やりたくないこと(=めんどくさいこと)も自分でやらないといけない」ということ。
自由とは、不自由なんです。
やらされるのではなく、自分で選んでやっていることだからこそ、それがたとえ割に合わないように感じることであっても、「楽しめるかどうか」が大事なんですよね。
この不自由さを楽しめないと、お客様の気持ちにも寄り添えないし、成果も出ない。あらためてそう実感しています。
実際、私は「1人ブラック企業だな〜」と思いながらも、楽しんでいるんです。休みの日でもInstagramを更新したり、ブログを書いたりしています。サロンに立っていない時間も“仕事”をしていますが、それも含めて楽しめているからこそ、今の働き方ができているのだと思います。
この「不自由さ」を楽しめないと、フリーランス美容師には向いていないと思います。

今後の展望とフリーランス美容師を目指す方へメッセージ
―今後の展望はありますか?
佐藤:サロンワークは今後も続けますが、病気やケガで働けなくなったときのためにも、収入の柱を複数持つことの重要性を感じています。若い頃には感じなかった不安ですが、年齢を重ねたからこそ強く思うことです。
ブログやSNSもその一環です。ブログ集客を始めた頃はコンサルを受けたり、オンラインサロンに入ったりもして、かなりお金をかけて勉強しました。自分の頭で考えられることには限界があるので、必要な投資だと思っています。
今は起業塾に入って勉強し、くせ毛さん向けの動画講座も作っています。自分の商品をもっと形にできたら、将来的には、集客に悩んでいる美容師さんをはじめとした、施術業界全般の方に向けて、講座やサポートを提供したいと考えています。単に集客方法を教えるだけではなく、「働いた時間=収入」という労働集約型の働き方から脱却し、自分の時間も大切にしながら、無理なく続けられる働き方や仕組みづくりについても伝えていきたいと思っています。
―フリーランス美容師になったからこそ、さまざまなことに挑戦できるのですね。
佐藤:はい、本当にそうです。サロンワークに追われていた頃は、本当に目の前のことしか見えていませんでした。でもフリーランス美容師になって時間に余裕ができ、次のことを考えられるようになりました。
時間ができたことで、家族に使える時間も増えました。それに、自分が動かなければ売上が立たない労働集約型の働き方には限界があると痛感しました。コロナ禍でお店を閉めなければならず、収入が減った経験をしたことも大きかったですね。
特に女性美容師さんは子育てと両立しながら働いている方も多いので、家でもできる仕事の柱があれば最高だと思います。
―最後に、フリーランス美容師を目指す方へメッセージをお願いします。
佐藤:「フリーランス美容師になってすごいですね」「おめでとうございます」と言われることが多いですが、私はそうは思っていません。会社に合わせられない自分の性格があって、自然とフリーランス美容師を選んだだけです。
だからこそ伝えたいのは、無理にフリーランス美容師になる必要はないということです。正社員で会社に貢献するのもひとつの才能ですし、フリーランス美容師だけが特別にすごいわけではありません。大切なのは自分の性格や向き不向きを理解することだと思います。
自由やライフワークバランスを求めてフリーランス美容師を目指す方も多いですが、実際は「自由=不自由」です。やりたくないこともやらなければなりませんし、最初のうちはまさに「1人ブラック企業」のような毎日が続きます。
ですが、その「1人ブラック企業」の時期を乗り越えた先にこそ、本当の意味での自由や、自分らしいライフワークバランスが待っているのだと思います。
それを知らずに集客体制が整っていないのにフリーランス美容師になってしまうのは、私はとても危険だなと感じています。やはり事前の準備と勉強は絶対に必要です。
お店をオープンしてから集客に悩んでいる方もよく見かけますが、それでは遅いですよね。オープン前から発信や集客を学び、土台を作っておかないと、結局不安が大きくなってしまいます。
特にこれからの時代は、感覚だけでは通用しません。技術はもちろん、マーケティングや発信の知識を学ぶことも大切です。学び続けることを自分の成長として楽しめる人には、すごく向いている働き方だと思います。
フリーランス美容師のリアルと可能性
華やかで自由に見えるフリーランス美容師の裏側には、すべてを自分で決断し、責任を持ち、ときには「一人ブラック企業」と呼べるほど努力を重ねる必要があります。
しかし、その時期を乗り越えた先には、自分らしい働き方や新しい挑戦が待っています。自分の性格や向き不向きを理解し、学びや大変さも前向きに楽しめる人にとって、フリーランス美容師は大きな可能性を広げてくれる働き方となるでしょう。