法律を知らないだけで昨日までの努力が一瞬で無に帰してしまう――そんな事例が年々増加しています。薬機法に触れる SNS 投稿が拡散してアカウントが停止されたり、歩合率の設定ミスが原因で未払い残業を請求されたり……。
どれも「知識不足」という共通点を抱えています。
本記事では、国家資格と衛生管理の基本から広告表現・薬機法、さらに労務管理や顧客クレーム対応、著作権・個人情報に至るまで、美容師が遭遇しやすい法律リスクを Q&A 形式で15項目に整理しました。
ブックマークしておくだけで、突然のトラブルからあなたの技術と収入を守る強力な盾になるはずです。
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開業前に必ず押さえる「国家資格」と「衛生管理」チェックリスト
① 国家資格の有効ライン
美容師免許は更新不要の“一生モノ”ですが、改姓や転居で記載事項が変わった場合は30日以内に住所・氏名変更届を提出する義務があります。無免許カットが発覚すると 美容師法6条違反で「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」。厚労省まとめでは2023年度、行政処分27件中5件が刑事告発に発展しています。資格証の所在・氏名に誤りがないか、開業前に必ず確認しましょう。
② 保健所への開設届
営業開始10日前までに所轄保健所へ
- 開設届(第2号様式)
- 平面図・設備概要
を提出します。平面図にはシャンプー室の給排水経路や消毒設備を明示し、従業員名簿も添付。提出が遅れると営業停止命令の対象になり得るためスケジュールは逆算必須です。
③ 器具消毒3ステップ
- 洗浄・乾燥 パーマ剤や毛髪の残渣を完全除去
- 消毒 エタノール70vol%で浸漬、または紫外線保管庫で2時間以上
- 密閉保管 使用器具と予備をローテーションし、清潔状態を維持
これらは美容師法施行規則第2条および**厚生労働省「美容所衛生管理士制度」**に基づく最低基準です。国家資格の届出・保健所手続き・器具消毒の3点を確実にこなすことで、開業直後の行政指導やクレームリスクを大幅に減らせます。まずはカレンダーに「届出期限」「消毒ローテ」を書き込み、ルールを仕組み化しておきましょう。
美容師の法律トラブルを防ぐ5か条
カラー事故やノーショー、LINE 暴露まで――顧客クレームが 損害賠償・示談交渉 に発展するのは「リスク説明不足」が9割。ここでは〈同意書・カルテ記録・PL法対策〉など、美容師が今すぐ実践できる5つの防波堤を解説します。
① PL法(製造物責任)
カラー剤やパーマ液で脱色・かぶれが起き、〈製品に欠陥があった〉ことと〈事故との因果関係〉が認められると、メーカーだけでなく販売・施術事業者にも賠償責任が及ぶ可能性があります。いっぽう配合ミスや放置時間超過など“使い方の誤り”は美容師側の契約不履行として請求される点に注意。
② 民法・契約不適合責任
2020年改正で「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へ。仕上がりが事前説明と大きく異なると返金・再施術・損害賠償を求められるリスクが高まりました。「色味は2週間程度で退色する場合があります」など結果を具体的に記録し、同意を残すことがトラブル回避の鍵です。
③ 同意書によるリスク説明
私は以下のリスクを理解し施術を依頼します。 □ 脱色 □ アレルギー □ 退色速度 署名____ 日付____ |
書面または電子サインで保管し、万一の保険提出にも備えます。ブリーチ4回+縮毛矯正で毛髪が断裂した事案に120万円の賠償が命じられたケースも。同意取得の有無が明暗を分ける典型例です。(※出典元:美容業界トラブルと慰謝料算定(日本美容法学会 2020))
④ 薬機法(旧・薬事法)
「髪質改善で若返り」「絶対に傷まない」など効能を断定する表現は医薬品的広告と見なされ行政指導の対象に。SNSやPOPも含め“言い切りワード”は避け、「〜する場合があります」程度にとどめましょう。
⑤ 個人情報保護法
カルテやLINE予約に記載された氏名・連絡先は個人データ。無断で DM 一斉送信したり、退職時に持ち出すと最大1億円のペナルティが課されるケースもあります。退職・独立時は顧客同意の有無を必ず確認しましょう。
5つの法律を“事前説明・同意書・記録保存”の3セットで仕組み化すれば、クレームは激減し万一の訴訟リスクも最小限にできます。
開業サロンが絶対守る広告・薬機法ルール
薬機法と景表法には「効果の保証」「医療的表現」を禁じる明確なルールがあります。とくに SNS やブログは投稿=広告と見なされやすく、違反すると行政指導や課徴金(売上の3%)の対象に。下表のように“言い切り”ワードを避け、作用をぼかす・主語を商品ではなくユーザーに置き換えるのが鉄則です。
NGワード例 | 代替OK表現 |
絶対に白髪が治る | 白髪が 目立ちにくく |
医療級の育毛効果 | ハリ・コシ感をサポート |
完全にダメージゼロ | ダメージを 抑えながら |
必ず−10歳ヘア | 若々しい印象 へ導く |
ポイント: “数字+保証”と“医学用語”は基本NG。「◯◯効果」「◯◯改善」も治療を連想させるため要注意。 |
Before/After画像を出す場合は
- 撮影日時・施術内容・使用商材をキャプションに明示
- ライティング・角度を統一し編集フィルターは不使用
- 変化を誇張する比較テキスト(例:たった1回で−5歳)は避ける
上記3条件を満たさない写真は「優良誤認」と判断されるリスクがあります。
覚え方は“E・A・T”
- Evidence(根拠の提示)
- Avoid absolute terms(断定表現を避ける)
- Time/method disclosure(期間・方法を開示)
この3ステップを徹底すれば、広告審査やプラットフォームの削除警告への対応コストを大幅に削減できます。
労務トラブルを避ける労基法&歩合設計ガイド
残業代の未払い、雇用契約書未締結、36協定の届出漏れ──スタッフを1人でも雇った瞬間、美容師オーナーの労務トラブルは「労働法違反=罰則」のリスクに直結します。
ここでは〈最低賃金を割らない歩合率の算式〉から〈36協定ひな型〉まで、明日から使えるチェックリストを公開します。
歩合給の「保証給ライン」を死守
歩合制でも最低賃金×所定労働時間は下回れません。
例)東京都 1,163円×173h=月20万1,199円がボーダー。売上が低い月はオーナー負担で差額を補填する義務があります。「基本給0+歩合100%」は違法になるので要注意。
36協定と変形労働時間制
人気サロンの典型パターン
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この変則シフトを合法化するには
- 36(サブロク)協定で時間外・休日労働の上限を届出
- 1年単位の変形労働時間制を就業規則に明記し、労基署へ提出
どちらかが抜けると是正勧告→未払い残業+年14%の遅延利息を追納、SNSで炎上したケースも。提出書類は労基署の窓口/電子申請どちらでもOK。毎年更新が必要なので“カレンダー作成→提出スケジュールを経理担当と共有”を習慣にしましょう。
競業避止・秘密保持は “距離×期間” が命
「辞めた途端に徒歩5分先で開業されたらどうしよう……」──そんな不安に備えるためには、就業規則や誓約書で競業避止義務を定めておくことが重要です。
実務上は、半径2km以内・期間1年以内が裁判所で有効と判断されやすい“許容ライン”とされています。
たとえば、大阪地裁(平成30年3月判決)では、「半径5km・期間2年」とする条項が、従業員の職業選択の自由を過度に制限するものとして無効と判断されました。
このように、距離や期間を過剰に設定すると条項自体が無効となり、かえって経営側が不利になる可能性があるため、慎重な設計が求められます。
顧客カルテやLINEリストを守りたいなら、営業秘密3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たすことが大前提。
- アクセス権を付けて閲覧者を限定
- 持ち出し禁止を誓約書で明文化
- データに「社外秘」「Confidential」表示
これらを徹底して初めて、不正競争防止法で差止めや損害賠償を主張できます。退職告知や顧客引き抜きトラブルの具体的な防ぎ方は、下記の記事でケーススタディを詳解しています。
👉 美容師の退職トラブルについてもっと知りたい方はこちらの記事をチェック!
著作権&肖像権──スタイル写真・BGM・AI画像は「3チェック」で安心
①スタイル写真
ヘアカタログや SNS 用の写真は、シャッターを切った撮影者が著作権者。雇用契約や就業規則等で「著作物の帰属」と明示がある場合、スタッフがスマホで撮れば店の共有財産にできます。しかし外部カメラマンに依頼した場合は「撮影データの著作権を無償譲渡し、二次利用を許可する」と契約書へ明記を。モデルの**肖像権同意書(使用媒体・期間を記載)**もセットが鉄則です。
②店内 BGM
JASRAC は美容業を「音楽著作物 90%利用業種」と区分。(出典元:一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)『使用料規程』第12節 BGM(背景音楽) 施設区分別適用料率表)店内スピーカーで市販 CD・サブスク音源を流す場合は **年間 6,600 円〜(客席面積 50㎡以下)**の包括利用許諾契約が必要です。フリー BGM でも著作権フリーか管理団体不在かを確認し、レシート・ダウンロード証跡を保存しておくと監査時に安心。
③AI 画像(Midjourney ほか)
生成 AI の画像はライセンスが混在。
- CC0…著作権放棄。商用利用 OK/クレジット不要
- CC-BY…商用 OK だが ©Midjourney などの表示義務
- プロンプトに著作物名(キャラ名・ブランド名)を含むと二次創作扱いで権利侵害リスクが急上昇
Instagram リールやチラシに使う際は、ライセンス種別のスクショを保存し、必要に応じてクレジットを記載しましょう。
カルテ・予約データは“3段階管理”で守る──美容師が知るべき個人情報保護法
は100万円以下の罰金。23年は行政処分28件中4件が刑事告発。個人情報保護法の改正(2022.4施行)で、カルテや予約データの漏えい対応・国外移転・委託管理に厳密なルールが導入されました。違反すると**最大1億円以下の罰金(法人)**が科されることもあります。
①クラウド予約アプリの「国外サーバー」確認
AWS 等、サーバー所在地が海外の場合はプライバシーポリシーに
- データの移転国名
- 当該国の個人情報保護水準
- 移転停止の手続き
を明示しなければ越境移転が違法となるリスク。提供会社の利用規約をそのまま貼るだけでは不十分なので要注意。
②個人情報漏えい時のルール
カルテ・連絡先が流出した疑いがあれば把握から概ね 3〜5 営業日以内に「速報」、その後 30 日以内に「確報」 を個人情報保護委員会へ提出するのがガイドラインです。
③LINEでの顧客管理
LINEで個人情報を扱う場合、同意の取得とLINEのガイドラインに基づく適切な管理措置が必要。
この2つを押さえ、カルテは端末 PIN+クラウド二段階認証で保管すれば、法的・実務的なセキュリティは合格点です。
よくある「法律×お金」の疑問をサクッと解決
Q1 無免許カットは?
→美容師法6条違反。2年以下の懲役また
Q2 「髪質改善」は薬機法OK?
→医薬品効能を断定しなければ可。「ハリ・ツヤをサポート」程度に。
Q3 電子サインの同意書は有効?
→改正民法で原則有効。タイムスタンプで改ざん防止を。
Q4 ノーショー客に違約金を取れる?
→事前に規約を提示・同意があれば合法。口頭だけは危険。
Q5 店内でYouTubeをBGM代わりに流すと?
→JASRAC包括契約の対象外。商用BGMサービスを利用。
Q6 シャンプー台で転倒したら?
→PL法+民法715条(使用者責任)。滑り止めと掲示でリスク軽減。
Q7 歩合40%固定は違法?
→最低賃金×労働時間を下回れば労基法違反。東京都173hなら19.4万円が下限。
Q8 36協定を出し忘れた場合?
→是正勧告+未払い残業の追納。悪質なら30万円以下の罰金。
Q9 退職スタッフが2km先で開業…?
→競業避止は「距離2km・期間1年」程度が判例で有効。詳細は〈美容師の退職トラブル対策〉記事へ。
Q10 顧客LINEの持ち出しは?
→営業秘密三要件を満たすと不正競争防止法違反の恐れ。
Q11 他人が撮ったスタイル写真を転載?
→撮影者が著作権者。許諾かクレジット表記が必要。
Q12 インボイス登録は必須?
→年商1,000万円未満でもBtoB比率が高ければ実務上登録推奨。詳しくは〈インボイス制度徹底解説〉へ。
Q13 青色65万円控除の条件は?
→電子帳簿保存+e-Tax申告。クラウド会計で自動対応可。
Q14 国保が高すぎる…対策?
→小規模企業共済・iDeCoで控除/家族の社保扶養へ。
Q15 助成金は個人事業でも取れる?
→雇用関係助成金は申請可。キャリアアップ助成金はスタッフ社保加入が前提。
そのほか気になることがあればお気軽にお申し付けください◎
まとめ―“技術×法務”が稼げる美容師の必須スキル
カットやカラーと同じく、美容師の法律リテラシーは売上を守るもう一つの手段です。
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