美容室経営において、売上が安定していても現金が回らず、倒産に追い込まれるという事態は決して珍しくありません。2024年の美容室倒産は前年比14%増加し、法的整理に至った美容室は197件に上ったことからもわかる通り、黒字倒産のリスクが高まっています。(出典元:帝国データバンク)
売上は安定しているのに現金が回らずに倒産に至る、いわゆる「黒字倒産」の原因には、資金繰りの管理が不十分なことが最も大きな要因です。このような事態を避けるためには、まず経営者として「現金の流れ」をしっかり理解し、適切なキャッシュフロー管理を行うことが求められます。
本記事では、美容室が倒産する7つの主な原因を解説し、それに対する実践的な倒産防止策を紹介します。最新データを基に、倒産リスクを減らすための効果的な方法を学びましょう。
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1. 美容室倒産の原因分析とその予防策
美容室が倒産する原因は、売上や利益だけでは説明できない場合があります。黒字経営をしていても、現金の流れをうまく管理できていないと、予期せぬ事態が発生した時に資金ショートが起き、最終的には倒産してしまうリスクが高まります。美容室は他の業種と同様に、収入のタイミングや支出のタイミング、季節的な波動、突発的な支出など、さまざまな要因が絡み合って経営を左右します。
ここでは、美容室が倒産する原因となる7つの主要な要因を詳しく解説します。
① 回転資金依存型
美容室の経営が黒字でも倒産する原因の一つは「回転資金依存型」になることです。現金での売上が減少し、カード決済比率が急増する場合、売上が計上されても実際に現金が手に入るタイミングが遅れます。
特に、カード決済の場合は、売上金が月末に締められてから、翌月に入金されるため、月初の支払いを先に済ませなければならず、現金が滞留することになります。このような状況では、月商が一定であってもキャッシュフローに大きなズレが生じ、資金ショートを引き起こすリスクが高まります。売掛金が長期化する場合、現金化までに時間がかかるため、運転資金が不足し、最終的には経営が立ち行かなくなってしまうのです。
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② 季節変動が大きい
美容室の経営において、季節ごとの変動は無視できません。繁忙期と閑散期では、売上の差が30%〜50%にも達することがあります。例えば、12月や年末は忙しく、1月や8月は比較的閑散といった季節的な波動が美容室には存在します。
繁忙月で得た利益を閑散月に使い切ってしまうと、次の月に資金ショートを起こしやすくなります。特に、閑散期には新規顧客の獲得や集客に時間をかける必要があり、収入が減少している状態で次月の支払いに充てる資金を準備できない場合、現金の流れが滞り、経営が不安定になります。これが続くと、最終的には経営に深刻な影響を及ぼし、倒産のリスクを高めることになります。
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③ 高額な設備更新
美容室には設備投資が必要不可欠です。シャンプー台、給湯器、POSシステムなど、長期的に使う設備は壊れることもあります。シャンプー台1基で80万円、給湯器で50万円など、1回の出費が大きいため、設備の故障や更新が突然必要になった際に、準備しておかないと資金ショートが発生する原因となります。美容室の経営では、これらの設備投資に対する事前準備が重要です。
もし急な設備投資を賄うための資金を確保していなければ、その支出で予算オーバーになり、経営が立ち行かなくなりかねません。特に事前に運転資金をプールしていない場合、設備故障が資金繰りの危機を引き起こし、倒産のリスクを高めます。
④ 運転資金の不足
運転資金の不足は、美容室経営の致命的な原因となることが多いです。美容室は回転資金が必要なビジネスであり、売上を確保していても、それが現金として手元に残らなければ運営ができません。適切な運転資金が確保できていないと、日常的な運営やスタッフの給与、仕入れなどが滞り、結果として営業を続けることが難しくなります。
運転資金は美容室が毎月スムーズに営業を続けるための命綱であり、これが不足すると、現金の流れが悪化し、最終的に倒産の原因になります。
⑤ 競争の激化
美容室業界は競争が非常に激しく、同じエリア内に多くのサロンがある中で、差別化を図るのが難しくなっています。競争の激化により、価格競争が生じたり、集客が難しくなったりすることが多いです。その結果、売上が減少し、十分な利益が得られなくなってしまいます。
競争力を保つためには、サービスの質を高め、独自の特色を打ち出す必要がありますが、それには追加のコストがかかります。競争に負けてしまうと、倒産のリスクが一気に高まります。
⑥ 管理能力の不足
美容室経営者が経営管理や数値管理に不慣れな場合、収支のバランスを取ることが難しくなります。特に、売上がある程度確保されていても、コストや経費の管理が不十分だと、最終的に利益が減少し、倒産の危機に繋がります。
経営者自身が数字に強くなること、定期的な収支チェックや事業計画の見直しが必要です。
美容室が倒産するリスクは、経営のどこかに問題がある場合が多く、それが積み重なって大きな問題に発展します。黒字であっても、現金の流れを管理しないと倒産に至る可能性があるため、適切な運転資金の確保と支出の管理が重要です。
2. 倒産リスクを減らす!今すぐ実践できる倒産防止策
美容室の経営を守るためには、倒産のリスクをしっかりと理解し、そのリスクを減らすための具体的な対策を講じることが不可欠です。特に、キャッシュフローの管理を徹底することが、美容室の倒産を防ぐ最も効果的な方法の一つです。売上や収益が順調な時期でも、資金管理が疎かになると突如として資金繰りが行き詰まり、最終的には倒産に繋がる可能性が高くなります。
ここでは、倒産リスクを減らすためにすぐに実践できる、実効性のある倒産防止策を3つご紹介します。
① 運転資金=固定費×3か月を先取り確保
美容室経営における運転資金は、売上が一時的に減少しても、事業を継続させるために非常に重要です。運転資金を固定費×3か月分を確保することで、安定した経営が可能になります。
具体的には、月の固定費(家賃、人件費、光熱費、通信費など)が150万円であれば、450万円を別口座に隔離し、常にプールしておくと、繁忙期と閑散期の資金繰りの波を乗り越えることができます。
この方法によって、売上が減少したり、カード決済の入金が遅れても、一定期間は安定して支払いができるので、経営が安定します。特に、閑散期にキャッシュフローが滞るリスクを減らすことができ、急な設備故障やスタッフ退職などの予期しない事態にも対応できます。
② 年間返済額は営業利益の70%以下に抑える
資金調達をする際、銀行や金融機関は返済能力を重視します。年間返済額が営業利益の70%を超えると、返済が負担となり、キャッシュフローが圧迫されます。これにより、資金繰りが悪化し、倒産リスクが高まります。そのため、融資を受ける際には、年間返済額を営業利益の70%以下に抑えるようにしましょう。これを守ることで、返済能力を示す指標である**DSCR(返済余力指数)**を1.5倍以上に保つことができ、銀行に対して信頼性のある返済計画を示すことができます。このようにして、銀行からの融資を円滑に受けられる状態を作ることができ、急な資金ショートや返済の重圧に悩まされることがなくなります。
◼︎なぜ「営業利益の70%」でDSCR1.5になるのか? 美容室では減価償却費が売上の5〜10%前後。返済原資(EBITDA)は「営業利益×1.05〜1.10」と見込めます。年間返済を営業利益の70%以内に抑えると、 DSCR = 1.05〜1.10 ÷ 0.70 ≒ 1.5 つまり1年の返済額に対して約1.5倍のキャッシュを確保できる計算。売上が1割落ちてもDSCRは1.35ほどで安全圏にとどまり、銀行格付けでも“標準以上”を維持できます。 |
これら2つの倒産防止策は、すぐに実践できるものばかりで、資金繰りを大幅に改善する効果があります。特に、毎月の支出に必要な運転資金を確保することは、急な支出に対する備えとして非常に有効であり、返済計画とキャッシュフローのバランスを取るための重要な方法です。さらに、決済手数料の支払いタイミングを見直すことで、現金化のタイミングを有利にし、資金繰りのリスクを最小化することができます。
これらの施策を実践し、計画的に資金繰りを改善することで、美容室経営はより安定し、倒産のリスクを減らすことができるでしょう。
3. 美容室倒産リスクを減らす融資活用Q&A
Q1. 自己資本比率が10%でも追加融資は受けられる?
A. 自己資本比率が10%の場合、追加融資は難しいと言われています。自己資本比率は、銀行が融資審査で非常に重視する指標です。自己資本比率が低いと、金融機関は「借入金に依存している」と判断し、リスクが高いと見なすことがあります。そのため、まずは役員借入金を増資に振り替え、自己資本比率を20%以上にすることが重要です。これにより、銀行との交渉が有利になり、融資の審査通過の可能性が高まります。
Q2. DSCRが急低下したらどうすべき?
A. DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、返済能力を示す最も重要な指標で、営業キャッシュフロー(営業CF)と年間元本返済額を比率で示します。もしDSCRが急低下した場合、返済能力に不安を抱えることになります。この場合、まずは設備リースの買い取りを検討し、月々の支払いを削減します。また、スタッフの給与体系を見直し、固定給から歩合制に変更するなどして、営業CFを改善することが急務です。これにより、DSCRを改善し、返済能力を確保することができます。
Q3. コロナ融資の返済が重い…
A. コロナ融資は、急激な売上減少に対応するために、多くのサロンが利用してきました。しかし、返済が始まるとその負担が重く感じられることがあります。その場合、信用保証協会の借換保証を活用することで、返済条件の緩和が可能です。具体的には、返済期間の延長や金利の引き下げなどの措置を講じることができます。融資の見直しを行う際には、早めに試算表を用意して金融機関と相談し、返済計画を再調整することが重要です。これにより、返済の負担を軽減し、資金繰りを改善することができます。
数字を見える化して倒産リスクを徹底管理し、美容室を守る仕組みを構築しよう
美容室経営で倒産リスクを避けるためには、自己資本比率30%、DSCR1.5倍、運転資金3か月分を基準にし、これらの数値を常に改善・維持することが重要です。これらを守れば、金融機関からの信頼が高まり、資金調達もスムーズに行えるようになります。
まずは、自店のキャッシュフローを見える化し、月次表に落とし込むことから始めてください。その後、自己資本比率やDSCRを意識した運営を行い、資金繰りの不安を減らすことが可能です。
これから美容室を運営する中で、確実に倒産リスクを減らし、安定した経営を実現するために必要な準備をしていきましょう。
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