シェアサロンや面貸しの広がりで、フリーランス美容師が増えてきました。美容室経営者にとって、業務委託契約は人件費を抑えつつ優秀な人材を確保できる手段として魅力的です。
しかし、契約内容が曖昧だったり、実際の働き方が“雇用に近い”と判断されると、思わぬトラブルや法的リスクにつながることもあります。
そこでこの記事では、業界経験と法律の視点を活かし、**「実態に合った契約書の作り方」と「よくあるトラブルの防ぎ方」**を、わかりやすくご紹介します。
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美容室の業務委託契約書チェックリスト3点
業務委託契約書を作るときに、いきなり書類を作り始めるのはNGです。まずは、相手がどんな立場で働くのか、どんな条件で働いてもらうのかを、しっかり整理しておくことが大切です。
ここでは、契約前に必ずチェックしておきたい3つのポイントを、わかりやすく説明します。
①契約する美容師は「個人事業主」として働く人ですか?
業務委託という形で契約するためには、美容師本人が「個人事業主」または「フリーランス」である必要があります。つまり、お店のスタッフ(社員やアルバイト)ではなく、“自分で仕事を請け負う立場の人”でなければなりません。
✅ チェック方法
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もし、実態が「サロンの指示で働く」「時間や休日が決められている」などの場合、法律上は雇用契約とみなされる可能性があります。
②お互いに「仕事内容」と「報酬」がハッキリ決まっていますか?
契約書の中でも、トラブルが起きやすいのがこの部分です。
業務委託契約を結ぶ前に、「どんな仕事をしてもらうか」「報酬はいくらで、どう支払うのか」をお互いに共有できているか確認しましょう。
この部分があいまいだと、「これは契約外だからやらない」「そんな金額じゃないと思ってた」などのトラブルにつながります。
③雇用契約との違いを理解していますか?
「業務委託」は、お店と美容師が対等な立場で契約するものです。
一方で、「雇用契約」は、お店が美容師に指示を出し、勤務時間や休日を決めて働いてもらうものです。
もし、業務委託と言いつつ、実態が以下のようになっていると…
- 出勤時間や休日をお店が決めている
- 店長やオーナーの指示で仕事をしている
- 道具も材料もすべてお店のものを使っている
こうしたケースでは、税務署や労働基準監督署から「これは雇用契約です」と判断されることがあります。
その場合、過去にさかのぼって社会保険料の支払いを求められるなどのリスクが出てきます。
このように、契約書を書く前に「相手の立場」「仕事内容」「お金の決め方」「働き方のルール」を明確にしておくことが、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
美容室の業務委託契約と雇用契約の違い
美容師をお店に迎えるとき、契約形態によってサロンの責任やルールが大きく変わります。
まずは、この2つの契約がどう違うのかを、表で簡単に比べてみましょう。
比べるポイント | 業務委託契約の場合 | 雇用契約の場合 |
適用される法律 | 民法(自由契約) | 労働基準法(厳格なルールあり) |
指示の関係 | 基本的に「指示なし」=お互い対等 | お店が「出勤時間・仕事内容」などを指示 |
社会保険 | なし(自己管理) | お店が社会保険に加入させる必要あり |
労災・雇用保険 | 加入義務なし | 加入義務あり |
💡ポイント
業務委託はあくまで「美容師=個人事業主」であり、お店との関係はビジネスパートナーです。 雇用契約のように、お店が働き方をコントロールすると、**別の契約扱いになる可能性がある**ため注意が必要です。 → 詳しいリスクやトラブルについては後半で解説します。 |
美容室の業務委託契約書の必須9条項
契約書は、万が一のトラブルを防ぐ「お守り」のような存在です。ここでは、美容師と業務委託契約を結ぶときに必ず書いておくべき9つの項目を、わかりやすく解説します。
1. 契約の目的と業務内容
どんな仕事をお願いするのかを明確に書いておきましょう。
たとえば、本契約は、美容室内における「カット・カラー・スタイリングなどの美容業務」を業務委託するものとする。
💡ポイント
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2. 契約期間と更新・解除のルール
どれくらいの期間で契約するのか、途中でやめるときはどうするかを決めておきます。
たとえば、契約期間は1年間とし、終了30日前までに書面で通知がない場合は、自動的に1年延長する。
💡ポイント
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3. 報酬と支払い条件
どれだけの報酬を払うのか、いつ・どうやって払うのかを書きます。
たとえば、月間売上の60%を報酬とし、月末締め翌月10日に指定口座へ振り込む。
💡ポイント
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4. 費用負担の分担
材料代や光熱費など、どちらが負担するのかを事前に決めておきます。
たとえば、材料費は各自が負担し、電気・水道などの光熱費はサロン側が負担する。
よくある費用項目
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5. 秘密保持義務
お店やお客様の情報が外に漏れないように、守秘義務を定めます。
たとえば、業務上知り得た顧客情報・営業情報については、契約終了後も漏らしてはならない。
💡ポイント
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6. 損害賠償責任
大きなミスや事故があったとき、誰が責任を取るのかを明記します。
たとえば、業務上の重大な過失によって損害が発生した場合、本人が責任を負う。
✅例
- 薬剤の使い方を誤ってお客様に怪我をさせた
- 高価な設備を破損した
→ 業務用保険などに加入してもらうと安心です。
7. 再委託の禁止
美容師本人が他の人に仕事を丸投げしないようにします。
たとえば、業務の全部または一部を、第三者に委託することはできない。
💡ポイント
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8. 契約違反時の対応
約束を守ってもらえなかった場合の対処方法を決めておきます。
たとえば、契約内容に違反があった場合は、書面で是正を求め、それでも改善されない場合は契約を解除できる。
💡ポイント
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9. 紛争が起きたときの解決方法
もし揉めごとが起きたとき、どうやって解決するのかを定めておきます。
たとえば、本契約に関する紛争は、東京地方裁判所を専属的合意管轄とする。
💡ポイント
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この9項目をしっかり契約書に盛り込めば、美容師との信頼関係も深まり、トラブルのリスクを大きく減らせます。
美容室業務委託契約書の実例トラブル対策
ここからは、実際に起きがちなトラブルと、それをどう防げばよいかを具体的に紹介します。
トラブル①:顧客の引き抜き
契約していた美容師が退店後、サロンの顧客に直接連絡を取り、自分のお店に誘導していた。
→ 結果的に常連のお客様がごっそり流れてしまった。
✅ 防止策
- 「顧客情報の持ち出し禁止」を契約書に明記する
- 「退職後⚪︎ヶ月間、顧客への営業活動は禁止」とする
- 誓約書や守秘義務条項を併せて取り交わす
📝 契約書記載例
美容師は、在籍中および契約終了後⚪︎ヶ月間、サロンの顧客情報を無断で使用・営業してはならない。 |
トラブル②:報酬の支払いでもめる
「⚪︎⚪︎%の歩合をもらえるはずだったのに、実際には少なかった」
「支払いが遅れている」「報酬の計算方法が不透明」など、金銭面でのトラブルが頻発。
✅ 防止策
- 報酬の割合(歩合率)や計算方法を明確に書く
- 支払い日(例:月末締め翌月10日払い)を指定する
- 支払いが遅れた場合の「違約金」や「遅延損害金」の条項もあるとベター
📝 契約書記載例
報酬は売上の○%とし、翌月10日までに指定口座へ支払う。支払いが遅れた場合は、1日あたり⚪︎%の遅延損害金を加算する。 |
トラブル③:SNSでのお店・顧客の無断掲載
美容師が自分のInstagramに、お客様の施術写真やサロン名を無断で投稿。
→ 顧客から「勝手に写真を使われた」とクレームが入り、信頼問題に発展。
✅ 防止策
- SNS・メディア利用に関するルールを契約書に書いておく
- 店名・ロゴ・お客様写真などは「事前許可制」にする
- 顧客の写真を使用する場合は、本人からの書面同意も必要
📝 契約書記載例
本契約において、美容師は、顧客情報・写真・店舗名等をSNS等で掲載する場合、必ず事前にサロンおよび顧客の承諾を得るものとする。 |
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契約書は「書き方」より「中身の実態」が大事です
契約書の形式だけ整っていても、実際の働き方が“お店の指示通り”であれば、雇用契約だと判断されることがあります。
業務委託にするなら、実態も“対等な関係”になっているかをしっかり確認しましょう。
つまり、
・契約書では「業務委託」と書いていても、
実際には「時間を決められている」「指示通りに動いている」といった場合、
法律上は“雇用”と判断される可能性があるということです。
・そうなると、過去にさかのぼって社会保険を払わなければならなくなったり、
行政から指導が入ったりするリスクも出てきます。
✅対策ポイント
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このように「契約書に書くだけではダメ」で、実態と契約内容がちゃんと合っているかどうかがとても大切です。これが、法律上の「安全運転」です。
よくある質問
Q1:契約書って、口約束(口頭)でも有効なんですか?
A:はい、法的には成立しますが、証拠が残らずトラブルになりやすいので書面が基本です。
Q2:歩合の割合(報酬)は自由に決めてもいいの?
A:自由ですが、50〜70%が相場。極端な設定はトラブルのもとです。
たとえば、
- 売上の50%を報酬にする
- 売上の70%を美容師に支払う
といったように、業務委託の場合は自由な取り決めが可能です。
ただし、
- 80%以上など、あまりにも美容師に偏った設定だったり
- 逆に30%以下など、報酬が少なすぎる場合は
美容師側から「これは不公平だ」「実質的には雇用じゃないか?」と主張されるリスクもあります。一般的な相場は50〜70%前後と言われています。まずはその範囲で設定すると安心です。
まとめ:まずやるべきは「実態に合った契約書」を用意すること
美容師との業務委託契約は、自由で柔軟な働き方を可能にする一方で、誤った認識やあいまいな取り決めがあると、後で大きなトラブルにつながるリスクもあります。
契約書は“お店と美容師の信頼を守る盾”のようなもの。
一方的に縛るためのものではなく、お互いに安心して働ける土台を作るものです。
まずは、この記事で紹介したチェックポイントを参考に、自店舗に合った契約書づくりから始めましょう。
そして、不安がある場合は、行政書士や弁護士への相談を強くおすすめします。
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