美容室で働く中で、オーナーとのトラブルに頭を抱えるケースは決して珍しくありません。
例えば、報酬の未払い、契約内容と実態の不一致、不当な解雇、長時間労働の強制、精神的なハラスメントなど、「これって本当に許されるの?」と疑問に思う場面に直面したことがある方も多いのではないでしょうか?
特に業務委託や面貸し、フリーランスとして働く美容師の場合、雇用契約ではなく、業務契約であることを盾に、法律ギリギリ、もしくは明らかに違法な対応を受けても、泣き寝入りせざるを得ない、そんな現実が業界には存在しています。
とはいえ、感情的に「訴えてやりたい」と思っても、実際に法的手続きを取るとなると、ハードルが高く感じるものです。そもそも訴えることができる内容なのか?証拠は必要か?弁護士に依頼すべきなのか?費用や時間はどれくらいかかるのか?訴えたことで報復的な不利益が生じないか?など、不安要素が山積みで、なかなか行動に踏み切れないのが現実です。
本記事では、美容室のオーナーを訴えたいと考えた場合に、どの様な行為でどの様な罪・請求が可能か、訴えるためのコストとリスク、さらに訴訟よりも実用的な「退職代行」の活用という選択肢まで詳しく解説します。

美容室オーナーとのトラブル|訴訟の対象になる行為とは?
不法行為(民事)で訴えられるケース
美容室のオーナーを訴えたいと考える場合、不法行為(債務不履行や損害賠償請求)が典型的です。例えば、未払い残業代、パワハラ・セクハラ、個人情報の漏洩、顧客の引き抜き禁止違反などが対象になり得ます。
日本の民法709条では、「故意、または過失により他人の権利を侵害し損害を与えた者は、賠償責任を負う」と定められており、不法行為としての訴訟が認められます。
契約違反・労働基準法違反による請求
雇用契約書に記載された労働時間・給与・休暇などを、美容室のオーナー が守らなかった場合、契約違反としての請求が可能です。また、労働基準法違反(未払賃金、休憩・休日の未付与、残業代未払いなど)も、正当な請求対象になります。
刑事告訴の可能性はあるのか?
美容師が「美容室のオーナーを訴えたい」と考えても、刑事事件になるケースは限られます。
名刺配布や顧客情報の持ち出しなどを巡って、オーナーが窃盗罪や、不正競争防止法違反を主張することがありますが、例えば顧客を引き抜いた程度で、刑罰に問われることはほぼありません。
不正競争防止法違反が成立するには、虚偽情報の故意流布などの特殊なケースでないと、難しいとされています。
美容室オーナーを訴える手続きと費用の流れ【3ステップ解説】
① 示談・内容証明・要求書の送付(プレ訴訟段階)
まずは訴訟前に、弁護士から「要求書」や「内容証明郵便」を送付する段階があります。こちらの時点でオーナー側が反応して、示談で解決すれば、訴訟を避けられるケースも多いです。
日本では、内容証明郵便を使った法的要求が心理的圧力として有効であり、成功すれば、時間・費用・精神的負担を軽減できます。
費用の目安(要求書作成)
要求書の作成:約30万~50万円 |
② 訴訟提起・裁判(民事)
相手が示談に応じなかった場合、正式に民事訴訟を起こします。訴訟には以下のステップと費用が伴います:
訴状提出・裁判所納付の印紙代(請求額による):高額請求なら数百万〜数千万円以上で印紙料も増えることに注意です。
弁護士費用は着手金+成功報酬:数十万円〜数百万円。交通費、証人旅費、翻訳費(外国人当事者の場合)なども、別途必要です。
③ 裁判費用負担と敗訴のリスク
日本では、敗訴した側が基本的に裁判所費用(訴状印紙・郵送費・証人旅費など)を負担します。弁護士費用は、基本的に各当事者が負担するので、敗訴時には自分で弁護士費用も払う必要があります。ただし、損害賠償請求が認められるような不法行為では、裁判所が当該請求額の10%程度の弁護士費用を認める場合もあります。(ただし上限があります。)
美容室オーナーを訴える前に知っておくべき3つのリスクとは?
①感情による判断ミスのリスク
美容室のオーナーを訴えたいという感情的な理由だけで動くと、証拠不十分で敗訴するケースもあります。勝算が低い訴訟に乗ることで、費用だけがかさみ、精神的に疲弊するリスクがあります。
②職場との齟齬・業界内評判への波及
訴訟を行うと、オーナーとの関係は完全に断絶します。さらに業界内での評判が悪化して、将来的な転職や顧客との関係にも影響する可能性があります。
③時間的負担とストレス
訴訟は、通常数か月から1年以上にわたることも珍しくありません。その間、証拠整理・出廷・書類対応などの負担が続き、裁判が終わるまで、精神的なストレスが続きます。
◼︎訴訟前に知っておくべきこと
「美容室のオーナーを訴えたい」と感じる前に、まずどの行為が、訴訟の根拠になるのかを整理しましょう。(不法行為・契約違反・労働基準法違反など) 示談→要求書送付→訴訟提起というステップには、相応のコスト(30~50万円〜数百万円)と時間、労力が伴います。 また、裁判に勝てなかった場合の敗訴リスクや、業界評判への影響も無視できません。 |
「辞めたいのに言えない美容師」にとっての退職代行という選択肢
精神的・肉体的な限界を迎える前に動く
美容室で働く中で、「辞めたい」という気持ちが芽生えても、それを上司やオーナーに伝えるのが怖い、言い出しづらいという人は、少なくありません。
特にアシスタントや若手スタイリストは、上下関係や閉鎖的な人間関係の中で、「辞める=裏切り」と捉えられる風潮に萎縮してしまいがちです。
しかしながら、自分の意思を我慢し続けて働き続けることは、やがて精神的・身体的な限界を引き起こす可能性があります。実際に、美容師としてのやる気が削がれたり、睡眠障害や、体調不良に悩まされるケースも珍しくありません。
退職代行は、その「辞めたいけど言えない」という心理的ハードルを取り除き、本人に代わって円滑に辞職の意志を伝えてくれる手段です。
限界を迎える前に、動ける仕組みを持つことは、長期的に見て、自分のキャリアや健康を守る賢明な判断と言えるでしょう。
引き止めや圧力から自分を守る手段
退職の意思を告げた後、強い引き止めや、感情的な対応をされることも珍しくありません。特に、美容室の様に、個人経営や小規模経営が多い業界では、経営者との距離が近いので、辞職が人間関係のもつれに発展することもあります。
また、退職届を受け取ってもらえない、退職日を先延ばしにされる、辞めた後の嫌がらせや給与の未払いなど、さまざまなトラブルが起きる可能性があります。
しかしながら、退職代行サービスを利用すれば、これらのトラブルを事前に防止できます。弁護士や労働問題の専門家が介入することで、法的根拠に基づいた対応が可能となり、本人は安心して、次のステップに集中できるのです。
次のステージへ進むための準備がスムーズになる
「辞める決意をしてから、実際に辞めるまで」の期間が長引けば長引くほど、精神的にも肉体的にも消耗してしまいます。次の職場や独立に向けた準備を進める余裕もなくなり、自分のキャリアの方向性を見失ってしまうことにもつながります。
退職代行を活用すれば、退職の手続きを専門家に任せることで、自分は次のキャリアのことに集中できます。求人を探したり、技術習得に時間を費やしたり、自分の本当にやりたいことを見直すきっかけにもなるでしょう。
また、美容師としての活動を続けたい場合も、シェアサロンでフリーランス美容師として活動するなど、柔軟な働き方に移行しやすくなります。心身ともに余裕を持って環境を変えることで、人生の選択肢が広がるのです。
退職を「わがまま」と捉える風潮や、「言い出しづらさ」から、辞める決断を後回しにしてしまうことは、美容業界では珍しくありません。
しかしながら、無理をして働き続けた結果、うつ病やバーンアウトに陥ってしまうケースも多く見受けられます。
退職代行という選択肢は、ただ「楽をするための逃げ道」ではなく、「自分の未来を守るための合理的なツール」として活用すべきものです。
人間関係に悩む、美容師としてのビジョンを見失った、過酷な労働環境に耐えられない、そんなときこそ、自分自身の人生を見つめ直す機会と捉え、賢く環境を変えていく判断が求められます。
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美容師が退職代行を使うときの流れと注意点まとめ
基本的な利用の流れ
退職代行サービスは、依頼者に代わって、勤務先に退職の意思を伝えてくれるサービスです。主な流れは以下の通りです。
①サービスを選ぶ
まずは、信頼できる退職代行サービスを選びましょう。弁護士が対応しているサービスであれば、トラブルが起きた際にも、法的に対応できます。価格帯は2〜5万円程度が相場です。
②申し込みとヒアリング
公式サイトから申し込みを行い、LINEや電話などで、現在の勤務状況や辞めたい理由、希望退職日などの情報を共有します。この時、必要に応じて給与未払いの有無や、有給消化の希望なども伝えておくと良いでしょう。
③退職手続きの代行
退職代行業者が勤務先に連絡して、あなたに代わって退職の意思を正式に伝えます。以降は、基本的に直接のやり取りが不要になり、連絡も業者を通じて行われるので、精神的負担が大きく軽減されます。
④退職完了
業者のサポートを受けながら、退職書類や制服の返却など、必要な事務手続きを済ませます。トラブルなく手続きが進めば、退職の完了になります。
利用にあたっての注意点
退職代行を使ったからといって、すべてが自動的に完了するわけではありません。書類のやり取りや返却物の送付など、自分で対応すべき部分もあります。また、退職のタイミングや残る給与、有給休暇の扱いについては、事前に確認しておくことが重要です。
美容師が退職する前に知っておくべき業界特有の注意点とは?
美容室ならではのしがらみとは?
美容室の世界には、一般企業にはない、独特の人間関係や慣習が存在します。例えば、「恩義があるから辞めづらい」、「地域のサロン同士で噂が広まりそう」、「先輩スタイリストに睨まれたくない」といった不安を抱えるケースも多いです。
こうした背景から、退職代行の利用に対して、「裏切り行為だ」と捉えられることもありますが、自分の健康やキャリアを守ることの方が、はるかに重要です。自分の人生に責任を持つという観点からも、必要な時には、外部の力を借りることをためらうべきではありません。
紹介やモデルの取り扱いにも注意
美容師の場合、退職時に顧客リストや、モデルの連絡先などの情報をどう扱うかも、問題になりやすい点です。勤務先によっては、「持ち出し禁止」などの社内ルールがあるので、事前に確認しておきましょう。
特に無断で顧客に転職先を伝えるなどの行為は、トラブルの原因になりかねません。円満に退職するためには、最後まで誠意ある対応が求められます。
独立を視野に入れている場合
将来的に、自分のサロンを持ちたいと考えている場合、過去の職場との関係性は大切にしておくべきです。退職代行を使っても、冷静かつ丁寧な辞め方を心がければ、後腐れなく円満退職することも可能です。
まとめ
美容師という仕事は、やりがいや誇りのある職業である一方で、労働環境や人間関係の問題により、転職や退職を決意せざるを得ないケースも少なくありません。しかしながら、実際に辞めたいと申し出ることができず、ズルズルと続けてしまう人が多いのも事実です。
そんなとき、第三者が間に入って、スムーズな退職をサポートしてくれる「退職代行」は、有力な選択肢のひとつです。特に、美容室業界の様に、スタッフ同士の関係が密接で、辞めづらい空気がある職場では、退職代行を利用することで心理的・物理的なストレスから、一気に解放されるメリットがあります。
ただし、業界特有の注意点として「報酬の取り扱い」、「私物の返却」、「顧客情報の漏洩防止」など、個別の事情をしっかり確認した上で、行動する必要があります。信頼できる退職代行サービスを選び、事前に必要な準備を整えることで、トラブルを未然に防ぎ、円満な退職を実現することが可能です。
退職はゴールではなく、より良い働き方を手に入れるための第一歩。勇気を持って一歩を踏み出せば、今よりも自分らしく働ける場所や、働き方に出会えるチャンスが広がっています。「辞めること=逃げ」と考えず、自分を大切にするための前向きな選択肢として、退職代行をうまく活用してみましょう。
